18) 気付かなかった不作法

第十八話)　気付かなかった不作法

8月7日は、スワンナプーム空港から夜便に乗る予定にしていた。
Erika の騒動で予期せぬ時間が出来たので、バンコクの友人でタクシー運転手の BA 氏と連絡を取る。
BA 氏はグリーンのタクシーで直ぐにやって来て、バンコクに住む兄弟 CH 氏の家へと向かった。
CH 氏，BA 氏は、カムペーンペットで農業を営む AL 氏の兄にあたる。
NN 夫人も加わり、ひとしきり AL 氏の話題で盛り上がった。

BK 氏は、タクシーの得意客からの電話を受けると、夕方迎えに来ると言って出かけて行った。
CH 氏は TV ニュースをつけて、この日に行われている国民投票の報道に見入る。
2014年より軍事政権下にあるタイが、民主政権を樹立するための新憲法草案への、賛否を問う国民投票だ。
軍事政権が起草した新憲法に対して、途中経過では賛成優位なようだ。
所謂タクシン派を支持して来た CH 氏は、苦い表情を見せる。



[AL 氏宅の農家のテラス，カムペーンペット]　(2016)
Farmhouse terrace, Kamphaeng Phet, Thailand


ニュースが、昨日の出来事に変わると、CH 氏は昼食を買いにバイクで出かけて行った。
昨日 8月6日、バンコク市内の高速鉄道 MRT (Mass Rapid Transit) で、新たにパープル・ライン (MRT Chalong Ratchadham line) が開通したとの報道が流れる。
車両と運行システムは日本製で、支援業務に携わる日本の人が登場する。
今日は、パープル・ラインを乗りに行って、夜まで時間を潰しても良かったと思う。

CH 氏はカオマンガイ (鶏炊き上げご飯) を買って来た。
タイではお客さんの方が食事代を払うので、代金を渡そうとすると、CH 氏は受け取りを固辞する。
それでも払いますと言ったのだが、CH 氏は繰り返し固辞した。
私は結局、食事代を渡さなかった。



[天地創造神話像，スワンナプーム空港]　(2016)
Samudra manthan artwork, Suvarnabhumi Airport, Thailand


夕方、戻って来た BA 氏のグリーンのタクシーで、スワンナプーム空港まで送って貰う。
BA 氏には、タクシー代として今日の礼金を渡した。
走り去る車に手を振る私に、BA 氏はルームミラーで気付いたのだろう。
車内で手を振って応えてくれた。
私は、その姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。

この時以降、BA 氏と CH 氏は、私に会うことを避けるようになった。
バンコクの友人に話すと、食事代を受け取らないと言われても、もう一度、もう一度と繰り返して、渡すべきだったと言われた。
その加減が分からなかったために、人が悪い (นิสัยไม่ดี ニサイ・マイ・ディー) と思われたのかもしれない。

(この時のことを書いた過去記事： 気付かなかった不作法)



[ラーミンタ路地での三兄弟との出会い]　(2008)　　左から AL，CH，BA 氏
Meeting with three-men brothers at Ram Inthra, Bangkok, Thailand


この件に直接関わらなかった AL 氏・DS 夫人・AI とは、以前と変わらずに交流を続けている。
AL 氏・DS 夫人が何と言おうと、BA 氏・CH 氏は私に会うことを避けている。
それでも何時の日か、十年来の友と、笑顔で宴席を囲む仲に戻りたいと思う。


－完－


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