10) 丘の向こうに | BIG BLUE SKY -around the world-

10) 丘の向こうに

第十話) 丘の向こうに

メーサーイを出てチェンマイへ向かう。
Pop は、チェンラーイを経由する道ではなく、ミャンマー寄りを走る山道を選ぶ。
かつてこのあたり、タイ、ミャンマー、ラオスの国境地帯は黄金の三角地帯 "Golden Triangle" と呼ばれ、山岳民族は阿片栽培を生業として暮らして来た。

ミャンマーで、民主化のリーダー アウン・サン・スー・チー氏が、国の事実上のトップになって三年が経つ。
国境の向こう側のシャン州の様子も変わったと、バンコクで働くミャンマーの人たちから聞いていた。
2010年,2012年にミャンマー訪問を計画したことがあるが、未だに実現していない。
近い内に、ミャンマーを訪ねたいと思う。



[チェンマイ郊外の山村の禍々しい植栽] (2009)
A tribal village of north-west Chiang Mai, Thailand


山道の途中で、パートゥン温泉に寄る。
日本の観光地と同じように、温泉で茹でる卵が一個 20THB (64円) で売られていた。
一つずつ買って、80度と表示された温泉に浸ける。
ベンチに腰掛けると、温泉特有の硫黄臭が頬を通り過ぎて行く。

10分待って殻を割ったところ、黄身も白身も軟らかいままで、茹で上がっていない。
さらに 10分待った Pop の卵も茹で上がっていなかった。
今日は、温泉の温度調整が上手くいっていないのでしょう。
Erika の冗談は、意外と本当なのかも知れない。



[茹で上がらなかった温泉卵,パートゥン温泉] (2016)
Eggs that could not been boiled in a hot spring, Pa Tueng Onsen, Thailand


パートゥン温泉を出て、チェンマイへとさらに山道を進む。
両側には、トウモロコシ畑が見渡す限り広がっている。
山の上の方まで、どうやって植えたのだろうか。
丘の向こうに、山岳民族の住む集落が在るのだろう。
Gary Moore の "Over the Hills and Far Away" が似合う風景を眺めていると、激しい雨が降って来た。



[トウモロコシ畑,メーサーイ~チェンマイ間] (2016)
Corn field between Mae Sai and Chiang Mai, Thailand


豪雨の山道は夜のように暗く、Pop はヘッドライトを付けて車を飛ばす。
Pop は、ここで仕事仲間が体験した怪談を語り始める。
豪雨の山中を歩く女性の横で車を止めると、女性の顔は白一色の顔無しで、目も鼻も口も無いのっぺらぼうだった。
猛スピードで車を走らせて、その場から逃げ去った。
それがまさにこの道だと言う。



[メーサイからチェンマイへ向かう山道] (2016)
Mountain road from Mae Sai to Chiang Mai, Thailand


タイの人々は、超自然的な存在を、ごく当たり前に信じている。
Pop や Erika のような都市住民でも、自然法則に反するものの存在を信じている。
豪雨の山中を走り抜けて、丘の向こうにチェンマイの街が見えた時、Pop がアクセルを緩めるのが分かった。
チェンマイ郊外の Café Amazon に車を止めると、Pop と Erika は心底安心した表情を見せる。
今夜は明るい場所で、二人に日本の怪談を紹介することにしよう。


< to INDEX >

 [#1177]