今回は、精神的に不安定な少女ナオミが主人公の日記体小説『ナオミ』の第5章です。

 第1章と、前回の第4章はコチラ↓

 

 

二千二十三年八月二十四日

 

 今日(というか昨日)、トムが夢に出てきた。水色のワイシャツを着てたわ。夢の内容はね、「私がトムをストーキングする」。

 

 夢の中で、私はなぜかどこかの駅…日本か外国かも分からない駅…の隅に、一人で突っ立ってた。駅はすごく混雑してたわ。

 

 そしたら、なんとその混雑の中に、リアムと一緒に歩いてるノエルを見つけたの。で、「あっ、ギャラガー兄弟だ!」ってなってたら、そのあとから今度は、あのトムが一人で歩いてきたのよ。私はびっくりして、あわててトムの後ろを追って歩き始めたわ。

 

 駅を出ると、急に人が少なくなった。トムが近くのホテルに入ったから私もついていくと、その人がホテルのロビーにある地球儀の前でたたずんでた…ってとこで目が覚めた。

 

 意味が分かんないわよね。意味は分かんないけど、ギャラガー兄弟も、トムも大好き。

 

 あと、何か書くことあったかな。ああ、そうだ。今日は詩を四本も書いたんだった。せっかくだから、この日記帳にも記しておく。

 

 

詩『ロック・スターは愛を知る』

 

「誰のためでもなく

 ロックに生きると決めたのさ」

 孤独を胸に抱えた男は

 ただメロディを書きつける

 他のことには目もくれないで

 ただただギターをかき鳴らす

 誰かのための優しい歌もいいけれど

 自分のための激しいロックが

 いつか誰かを救うはず

 そのとき初めて愛されて

 ロック・スターは愛を知る

 

「生きるためでもなく

 ただ夢を追うと決めたのさ」

 希望を胸に抱えた男は

 仲間を見つけて走り出す

 狭いスタジオでカッコつけ

 殴り合いながらロックする

 生きるための明るい歌もいいけれど

 理想のためのイカレたロックが

 いつか誰かを生かすはず

 そのとき初めて歌われて

 ロック・スターは勃起する

 

 優しい歌もいいけれど

 明るい歌もいいけれど

 自分のための激しいロックが

 理想のためのイカレたロックが

 いつか誰かを救うはず

 そのとき初めて愛されて

 ロック・スターは愛を知る

 

 

詩『やってられない』

 

生まれる前から知ってる場所へ

帰りたいなんて思わないかい

それとも苦しい思いをしながら

やっぱり未来へ歩くのかい

そうだな 君は知っている

振り返ったら未来はないこと

君の肩幅は狭すぎて

誰もエゴを乗せられない

泉のほとりに濁りはあるが

それを掬って呑むのには

君はあまりに若すぎた

 

狂ったようにおどけて遊べ

小さな手なんて誰も盗らない

そんなに潰れた胸を押しながら

やっぱり君は未来へ歩く

そうだな 僕は知っている

空気が枯れて水もないとこ

十六の喉は狭すぎて

酒もビールも流れない

泉のほとりに濁りはあるが

それを掬って浴びるには

僕はあまりに生きすぎた

 

 

詩『踊れ! アーネスト』

 

初めて会ったが言わせてもらう

お前はまともな男じゃねえな

だからオシャレな帽子は捨てて

ハダカで街を歩きなよ

まだ焦点が合ってない

ザンネン お前が見てきたものは

全部ニセモノ、イカサマさ

ルーシーは空を飛ばねえし

サリーは待ってくれねえぞ

可哀想に 可哀想に

それでもお前はまだ眠るのか?

腹痛だったらしょうがねぇかな

ちゃんと生きたら褒美があるぜ

お前はいつから分かってる?

 

二度目に会ったがDon't say tomorrow

やっぱりまともな男じゃねえな

だから過去に想いを馳せて

一か八かはもうやめろよ

まだ焦点が合ってない

ザンネン お前が見てきたものは

全部ニセモノ、イカサマさ

ルーシーは空を飛ばねえし

サリーは待ってくれねえぞ

可哀想に 可哀想に

それでもお前はまだシコるのか?

普通だったら殺すとこだが

特別サービスしてやるぜ

お前はいつから起きている?

 

 

詩『Hey, Hey, Idiot』

 

起き上がり方が分からない

ずっとベッドで眠ってたから

自分の顔が見つからない

ずっと鍵を探してたから

 

毎日シーツで泣いてたの

そこだけ明るく陽がさしていた

 

そこらじゅうがかび臭い

けれども僕はこれでいい

目の前にはホワイトボード

奥の部屋には本棚がある

でも絵は描かない 本も読まない

ただ生まれたときからそこにある

馬鹿だったんだろう? 僕は

目の前の君と同じように

 

声の出し方が分からない

ずっとむっつり黙ってたから

自分の涙が見つからない

ずっと雫に埋もれてたから

 

毎日 枕で泣いてたの

そこだけ明るく陽がさしていた

 

どこに行っても独りぼっちで

家族さえもここにはいない

血が繋がってるはずなのに

ここにはみんなの心はいない

でも詩は書かない 会いにも行かない

ただ死ぬそのときまでここにいる

馬鹿だったんだろう? 僕は

目の前の君と同じように

 

馬鹿だったんだろう? 君も

目の前の僕と同じように

 

だから

結局

馬鹿なんだろう? 僕ら

目の前の奴も見えやしない