こんにちは、あすなろまどかです。
前回、池井戸潤さんの小説『下町ロケット』についての記事を書きました。
『下町ロケット』を読む前、恩田陸さんの小説『夜のピクニック』を読んでいました。
これがとても面白く、現代日本の名作小説をあげたら、間違いなく5本の指に入ると思います。
終わり方も爽やかで後味が良く、それでいて余韻を残していきます。読み終わったあと、もう1度ページをめくったり、本を置いてぼーっとしたりしていました。
皆が幸せになって終わったので、恩田さんは本当に登場人物全員を好きなのだなあと思いました。
面白いなあと思ったのは、『夜のピクニック』の主人公・甲田貴子と、『下町ロケット』の主人公・佃航平が、似たような台詞を口にしていたことです。
「何かの終わりは、いつだって何かの始まりなのだ。」ー甲田貴子
「挑戦の終わりは新たな挑戦のはじまりだ。」ー佃航平
登場人物たちの設定やセリフ回しの端々に、あだち充先生の漫画を思わせる小説でした。登場人物たちの顔も、ずっと あだち先生の絵で思い浮かべていました。
個人的に、ぜひ あだち先生に漫画化していただきたい小説です^ ^
この小説の主人公は、異母兄弟である西脇融と甲田貴子。その複雑な関係性ゆえ互いに近付けない状況が、徐々に好転してゆく物語です。
ふたりの関係を変えるきっかけとなるのは、ふたりが通う北高校の伝統行事「歩行祭」。その名の通り、全校生徒がただ歩き続けるだけの学校行事なのですが、80キロの道を行って帰ってくるという過酷な道のりです。
その中で、融の友人・戸田忍や、貴子の友人・遊佐美和子などが活躍し、それぞれの思いや言葉がゆっくりと絡まりながら、物語はクライマックスへと向かっていきます。ところどころに散りばめられた伏線や、受験を間近に控えた高校生が語る静かな本音など、読む者を夢中にさせる要素がふんだんに盛り込まれた小説です。
この小説で、私の心に深く残った、忍の台詞があります。早く大人になりたいと願い、ひとり突っ走ろうとする融に、忍はこう言うのです。
「あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ。もちろん、おまえのそういうところ、俺は尊敬してる。
だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。
おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う」
私の中でこの言葉が深く印象に残ったのは、私も融と同じように、焦燥感に駆られて生き急ごうとしていたからです。私は、生活の中の無駄なことは全て排除して、必要なものだけを早く取り込み、早く生きたいと考えていました。
しかし、その考えは、忍の言葉で変わりました。忍が言いたいのは、「青春時代は2度と戻ってこない」ということだと思います。大人になってからしか出来ないことはたくさんありますが、子供のうちにしか出来ないこともたくさんあるということを、私も融も忘れていたのです。
この物語に高校生のうちに出会うことが出来た私は、本当に幸せな人間だと思います。多くの高校生は、将来に悩み、不安を抱え、早く大人になろうとしてしまうからです。その「多くの高校生」になりかけていた私を、戻らない青春を捨てようとしていた私を、忍は止めてくれました。
これから、忙しい日々に翻弄されて、大切なものや、その時にしか出来ないことを逃しそうになってしまった時は、何度でも忍の言葉を思い出します。いつも変わらぬ本のページの中で、忍はいつもと変わらぬ眼差しで、いつもと変わらぬことを言ってくれるからです。
「雑音だって、おまえを作ってるんだよ。このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。」
…これだけ忍の名言について熱く書いたけど、私が1番好きなのは高見光一郎です^^;
光一郎は、ロック大好きなお調子者の少年です。口グセは「ベイベー、幸せですかーっ」。元気でうるさい彼ですが、物語終盤では思いがけない活躍を果たしますよ!