最初は、本当に距離があった。
私は、別の配信者を追いかけてアプリに来た。
知り合いに気づかれたくなくて、年齢もプロフィールも変えて、別人として入った。
現実を持ち込む気はなかったし、見られるのも、知られるのも、面倒だった。
ヒロのことは、その頃は「配信している人の一人」だった。
名前を覚えていたくらいで、それ以上でも以下でもなかった。
その距離が正しかったし、その距離で十分だった。
距離が少し動いたのは、コメントをするようになってからだ。
最初は一言だけで、挨拶のようなものだった。
深い話をするわけでもなく、ただ軽いやりとりが増えただけだった。
ヒロは毎日のように配信をしていて、私はいつの間にかそれを見るのが習慣になっていった。
それでもまだ距離はあった。
現実は入り込んでいなかったし、嘘も本当も関係なかった。
ただ、生活の中にヒロの声が混ざった。
その程度だった。
けれど、その程度でも距離は少し動いた。
距離が大きく変わったのは、配信の外に出てからだった。
ヒロと私はほぼ毎日、五時間の配信を一緒にして、
配信が終わると二時間ほどグループ通話をした。
共有する時間が増えると、距離は自然に縮まっていった。
ある日のグループ通話で、私は昔付き合っていた人が事故で亡くなった話をした。
笑い話でも愚痴でもなく、どこに置けばいいのか分からない種類の話だった。
そのときヒロは、言葉を挟まずに最後まで聞いていた。
慰めも、助言も、評価もなかった。
その静けさが、私には救いだった。
そこから、距離の感じが変わった。
グループ通話は少なくなって、個人通話が増えた。
特別な理由も合図もなく、自然に二人だけになった。
通話の終わりに「いつか会いたいね」と言うのが挨拶みたいになった。
会うつもりはなかったけれど。
距離が大きく動いたのは、ヒロがメンタルを崩したときだった。
深夜の通話で、理由を聞いた。
慰めたわけではなく、ただ聞いていた。
そのまま会う約束をした。
断らなかったし、止めなかった。
実際に会った。
ヒロは気づかなかった。
年齢にも、嘘にも。
一線を越えても、気づかれなかった。
距離は、気づいたらここまで来ていた。