近づかない距離は、
冷たさから生まれたものじゃない。
むしろ逆で、
壊したくないから、踏み込まなかった。
相手の声に触れすぎると、
自分の感情があふれてしまうことを、
私はもう知っていた。
優しさと依存は、
よく似た顔をしている。
一歩間違えれば、
「大切にしたい」は
「手放せない」に変わってしまう。
だから私は、
あえて距離を選んだ。
話せるけれど、触れない距離。
想っているけれど、期待しない距離。
支えるけれど、背負わない距離。
近づかないことは、
逃げではなかった。
それは、自分を守るための線であり、
相手を縛らないための線でもあった。
本当は、
もっと近づきたい夜もあった。
声の温度に、
名前をつけたくなる瞬間もあった。
それでも私は、
その一歩を選ばなかった。
それは臆病だったからじゃない。
「これ以上は、壊れる」と
ちゃんと分かっていたから。
近づかない距離は、
冷静さでできている。
でもその内側には、
確かに感情があった。
何もなかったわけじゃない。
ただ、
近づかないという形を選んだだけ。