「すき」にもいろいろある。



梨乃は結婚後、夜のお店はもちろん会社もやめた。

専業主婦はなかなか悪くない。

もともと家のことをするのは嫌いじゃなかったし、同じく主婦になった平日のお昼にひまな女友達とランチや買い物にでかけたりすることに、夫は好意的だった。

だから息苦しくなることもなく、順調に夫婦生活は続いていた。


二人とも急いで子供がほしいわけではなかったので、しばらくは夫婦だけの日々。

家事もだんだん慣れてきて、手を抜かなくても時間を持て余すようになった。

魔がさした、というのだろうか。

夫は仕事が忙しく、夫婦仲が悪かったわけではないが梨乃の相手をする時間もそれほどなかったのだ。

何かを期待していたわけではなく、ただ話し相手としてたくやにメールをしてみた。
「元気にしてる?もうすぐお祭りだね。今年も行くんでしょ?私はまだわからないけど、行けるなら連絡するね!」

しばらくするとたくやから電話があって驚いた。

「今、和則と飲んでるんだ。お祭り来れるといいな。」

たわいないおしゃべりをして電話を切った。元気そうだった。


さらに数十分後メールが。

「連絡ありがとう。突然だけど、もし食事に誘ったら迷惑かな?俺子持ちだし気になってたんだけど、良かったらまた二人で食事に行きたいと思って。」

梨乃は考え込んでしまった。

(これってもしかして・・・。いや、食事って言ってるしそこまで深く考えなくてもいいよね。)

少し迷ってから返信する。

「お誘いありがとう。平日は夫の帰りがまだ早い方だから主婦としては出にくいけど、土日も仕事だし帰りも遅いからランチとかならOKよ!でもたくやはお休みの日に出るのは難しいかしら?」

「週末のお昼なら大丈夫だよ!また連絡するから。」



歯車は回り始めていたのかもしれない。


ある日曜のお昼に待ち合わせをした。二人ともぎこちなく、どれくらい近づいていいのか探ってるみたいな。

初めてデートしてるカップルのように、それとない距離で街を歩いた。

楽しかった。

たくやはそれほど焦ってる風でもなく、でもちょっとだけ思いつめた顔でささやく。

「二人になりたい。」

梨乃は直球の言葉に戸惑って無言になる。

「・・・・・・・・・ダメ。嫌じゃないけど、その気ならちゃんと口説きなおして?」

と微笑んだ。

たくやは笑って

「やる気出るなぁ。」と答えた。


そうして時々週末のお昼に会うようになった。

毎回ベッドに誘ってくるというわけじゃなく、ただランチを食べてブラブラするだけの日もあった。

そんなゆったりした時間は梨乃にとっても心地よかった。

二人とも家庭を壊すとか、奪うとかは考えてなくて、ただの気まぐれなんだと思う。

これが片方の気持ちが重かったりするとこんがらがっていくのだろうが、そういうこともなく穏やかな日々を過ごせた。


そして。

その日は観覧車に乗っていた。週末だというのに、それほど混んでいなかったので乗ってみようと梨乃が言い出したことだった。

よく晴れたまだ明るい景色は見ていて気持ちよかった。

当然のように横並びに座る二人。

たくやの手が梨乃の腰に回る。

振り返るとキスをされた。唇が触れるだけの軽いキス。

それだけで梨乃は背筋がしびれた。


(また来ちゃった。)

自分の弱い意思にあきれながら、ホテルの部屋であまり罪悪感も抱いていない自分。

「口説けたってことだよね?」

ちょっと笑いながら確かめるたくや。

「そうじゃなきゃ来ないわよ。」とやっぱり笑顔の梨乃。

優しい指が梨乃の服にかかった。


数年前に一度抱かれただけなのに、なんとなくしっくりくる。

たくやの熱い吐息が、梨乃の肌に触れる。
「・・・ふ・・・・・ぅんっ・・・・」

「きれいな肌だね。吸いつくみたいだ。」

「・・・・・やだ・・」

キスされたまま、手が髪を、背中をなでたまま、もう片方の手が梨乃の溶けるように熱いところを泳ぐ。

(きもちいい。)

「梨乃はすぐにとろけるね。どうしてほしいの?」

また意地悪な質問にこたえられない。

「ここ?それともこっち?」

次々問いかけながら梨乃をびくっとさせるたくやの指。

「言わないとずうっとこのままやめないよ?」

だんだん頭がぼーっとしてくる。その中で腰の裏側あたりがじんじんしびれるようになってきた。

「んっ!・・・・・あぁ・・・・やぁっ・・・もうだめ。。。おねがい、ちょうだい」

ニヤリと笑ってたくやが自分の腰を梨乃の顔の前に持ってきた。

梨乃は自然と唇が開き、舌舐めずりしていた。

「梨乃ヤラシイ♪」

楽しそうなたくや。梨乃も嬉しくなって丁寧に愛撫する。

そうして熱く硬くなったたくやは梨乃に腰を沈めた。

「なかっ・・・あついよ・・・・」顔をしかめるたくやが愛おしくなって梨乃はますます締め付ける。

「ひくひくしててきもちいいー。っ・・・・だめだって、そんなに締めちゃ」

「だって感じちゃって勝手にそうなっちゃうんだもん」

ゆっくり動いてくれるから、少し余裕の出てきた梨乃が言う。

「ねぇ、うしろからして?」

「やっぱり梨乃はヤラシイな」

伸びをする猫のような体勢でたくやを受け入れると、今までとはまた違う快感が襲う。

背中から回したたくやの手が梨乃のふくらみの先の硬くとがった部分をつまむ。

「んっ・・・!」

それだけで梨乃のなかがきゅっとなるのがわかる。

さらに二人がつながってる場所の近くの、梨乃の一番敏感なところにも指が伸びる。

まるく円を描くようにゆっくりなでてくれる。

「あっ・・・・はぁ・・・んん」

もう頭が気持ち良さでいっぱいになる。耳元では

「りの、きもちよさそうだね、腰がうごいてるよ。俺も手が勝手にうごく。りのの溶けてるとこずっとさわってたい」

と淫靡な言葉を紡ぐ。


夫にはここ最近言われることのなくなった甘い言葉が耳に心地よい。

たくやは奥さんにもこういう風にささやくのだろうか。

嫉妬、とはたしかに違う素朴な疑問だった。

(めちゃくちゃきもちいいのに、こんなこと考えてるなんて余裕だな、あたし)

頭の片隅で梨乃はクスクス笑う。

(やっぱり恋してるわけじゃないんだなぁ)


きっとこれからも会うかもしれない。会わないかもしれない。

そんなあいまいな気分だった。



「すき」にもいろいろある。