3月以降はようやくスカッと抜ける青空を朝から見られるようになった。2月まではほぼ毎日PM2.5に満ちた霧が灰色の綿布団のように覆いかぶさっていただけに、晴天はやはり胸が空く。
しかし晴れているというのは空気が乾燥していることでもある。車線も引かれていない道をルール無用で、あらゆる種類の車両がせめぎ合う。濛々と巻き上がる土埃に隣の車すら黄銅色にかすむ。PM霧が薄まっても、どう考えてもこの土地の空気は体に悪い。きれいだと思うよすがが、ひとつもない。
大きな通りに沿って、ところどころに巨大なマンション群が建っている。30階はあるだろう。高級マンションは外装もなかなか凝っていて、さしずめ寺院の装飾に見られるような曲線をあしらった模様をほどこしてある。同僚の N氏はそろそろマンションを買ってもいい年頃だ。
「週末のマンション探し、どうだった?」と軽く聞いてみる。
「行ったよ。でもあまり良いのがなくて。」
浮かない返事だ。路側のマンションが茶色にかすむ。
「まぁ高い買い物だしね。焦ることないよ。」軽くなぐさめた。
「それはともかく、友達が持っているマンションを売るらしい。一度も住んでないのに。」
「え、投資用だったということ?」
折悪く車が道のバンプに乗り上げて大きくバウンドした。
「いや、住むつもりで買ったけど、引き渡し期限を5年過ぎてもまだ引き渡しされないので。今住んでいる家の家賃と住宅ローンのダブル負担に耐えられなくなって。」
5年の引き渡し遅延とはどういうことなのか。日本にいた時には聞いたことがない。頭が混乱してきた。
「それ、5年も経つ前に借家の費用をデベロッパーに請求したり、場合によっては契約を解除したりできるよね?」そう、日本では当然できるはずだ。
「それはできない契約になっているらしい。買った頃は抽選の倍率がすごくて、当たった人は契約書なんか見ないで即刻契約してた。まさか引き渡しが5年も遅れるなんて、当時は誰も思わないよね。」
なんだか日本でもバブル時代にちょっと聞いたような話だ。
契約書、みんな見てないよなぁ、あの頃は。でも、よくよく見れば蟻の頭くらいの文字で大事なことが書いてある。インドで当時高級マンションを買えるくらいの頭金を持っていた小金持ちたちが気の毒に思えてきた。
記事は12年の引き渡し遅延で、N氏の友達よりかなり悲惨なケースだ。買ったマンションに12年も入居できずローンを払いながら借家の家賃も負担するとは何とも残酷な話である。しかし、それが実際に起こっている現実。
デベロッパー社長の言い訳がふるっている。
「弊社としましては出来る限りの努力は致しておりますが、なにぶん不動産業界全体が非常に不景気の状況でございまして、これらは弊社にはコントロール不能でございまして、そのような次第で多くの開発計画が大変遅れ遅れとなっておりまして…」
不景気のせいにしている。無責任もいいところだ。
その程度の会社に生涯最大の買い物といわれるマンションの命運を託したのは、買い主側の不明によるところと言えなくもない。
N氏や若い仲間が浮かれてババをつかまされないことを心から祈る。
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