人生のコースには人それぞれのペースというものがある。自分のペースに合わせて、息切れず、疲れすぎをせず、ゆうゆうと歩を進めて、とにかくその行き着くところまで、立派に行き着けばよろしいのだ。
- 石坂泰三
日本の財界人。第一生命保険、東京芝浦電気(現・東芝)社長を経て、第2代経済団体連合会(経団連)会長を務めた。
フェイスブックの投稿を見ていると「この人はずいぶん生き急いでいるな」と思うことが多々あります。平日は各地への出張に夜遅くまでの残業。土日のどちらかはたいてい仕事で、仕事の合間にジムに行ったり映画を観たり。あんなに毎日張りつめっぱなしで大丈夫なのか、と見ていて心配になります。
インド人も、思いのほかと言っては失礼ですが、よく仕事をします。やる気のある人は夜遅くでも休日でもメールを書いてきますね。ただ、先ほど触れたような生き急ぎタイプは見かけません。熱心に仕事をしながらも、心はゆるゆるとしています。
国土が広いので車で 2~3時間という移動も多く、時間があればよくインド人の同僚と話をします。P氏はほがらかな中年の男で、あまり細かいことを気にしないせいかかなりの肥満体。休憩に入ったドライブインでは他の同僚の分のサモサまでバクバク食べています。
「食べっぷりがいいね~」ちょっとからかい半分に話しかけてみました。
「俺は何を食べても1時間で腹が減るんだよ」サモサを詰め込んだ口でモゴモゴと答えます。
「もしかして健康診断でメタボとか言われてない?」失礼を承知で聞きます。まぁ彼なら怒らないだろうと…
「あぁ、もちろん色々と検査で引っかかるよ。血圧が高いとか体脂肪が多いとかなんとか」涼しい顔でP氏。
「ダイエットしないの?」
「しないね。かえって体の精気がなくなるから。病人はみんなやせてるだろ。欧米ではみんなろくに食べないでダイエットするけど、あれは間違いだね。あんなことをすると免疫力が落ちて、かえって病気になる」
そういう考え方もあるか、とちょっと目から鱗が落ちました。いやしかし、どうもごまかされている気もします。
「メタボは脳卒中や心筋梗塞の原因になるっていわれるよね」しつこく聞いてみます。
「その時はその時さ。どうせ人間いつかは死ぬんだから。50歳で死ぬか70歳で死ぬかタイミングの違いだけだろ。早く死んだら、やり残しは来世でやればいいんだよ。長生きしようとして不味いものばかり食べてたら人生損だろ」チャイでサモサを流し込むP氏の嬉しそうな頬には一点のためらいもありません。
一度限りの人生だと思い、あれもこれも欲張っていたな。歩んできた道のりを振り返り、改めてそう思えました。
そうか、来世か。昔は「人間50年」今は80年ですかね。総理大臣になってもノーベル賞受賞者になっても、もっと長い物差しで見たら人生に大きな違いはないのかもしれません。もし今回が80年コースだとしても、その間にやれることを、やれる範囲でやれば、それで良いのです。
限られた時間にあれもこれも詰め込んだら、消化不良でどこかに必ずほころびが出ます。出来事のひとつひとつをかみしめる余裕がないと、雑な生き方になります。焦らず無理をせず。できる範囲で、日々を丁寧に生きたいものです。