自分が問題解けないことについて、見栄を張ったのか、あるいは己を過信していたのか。
とにかく彼は、問題が解けていないにもかかわらず藤川に、こう報告していた。
「大丈夫、解けています」
もともと得意科目だったので、本来これだけやれば大丈夫というノルマを課して、苦手科目の底上げに全力を挙げていた。定期的に確認はしていたのだが、学校でも解けていると言うし、波があるもののそれなりの成績をあげていたので、こちらも油断していたいう批判は甘受しなくてはならない。逆に言うと、それほど他の教科が出来なさすぎたのであるが・・・・・・。
正直、少々過信していたというか、大人扱いしすぎたのかもしれない。そうした意味では反省している。
しかし、残りの教え子たちが、出来ないなら出来ない、やっていないならやっていないと正直に言い、間違えたところや忘れていたところを次の時までにはきちんと修正してくる。そこまで出来なくとも、最低限、教わったという事実を覚えているというのに、昨夜出来なくて指導した内容ほとんどそのままの問題を解けないばかりか、そのやったという内容すら覚えていないようでは、そして覚えようという努力をしていないのでは話にならない。
これまではプレッシャー負けしていると好意的に解釈して我慢してきたが、ついに愛想が尽きた。
自分の成績を省みずに、好き勝手なことをやり、挙げ句の果てに高望みをしているというのに。
詰問したところ、解けていなかったという事実をようやく告白した。
自分を助けてくれる人間に嘘をついて、いったい誰が助けてくれるというのか。
解けていないならば、対策の打ち方が違ったのだ。
ここまでアホだとは思わなかった。
一生懸命頑張って、それでも成績が上がらないのならば、それはそれで仕方がない。そういう子には、最後まで藤川は付き合う主義である。
しかし、やることやらずに、好き勝手をやった挙句、言うことを聞かず、嘘をつき、この期に及んで何とかしてくれと言われたところで、対処のしようがない。
来年、どこかの予備校で自分の愚かさをゆっくりと反省して、今度は誰も側で助けてくれない環境がいかに大変か、味わってくるといい。
契約があるので二月の試験が終わるまでは付き合ってやるが、来年度はいくらギャラを積まれても面倒を見る気はない。
嘘をついてその場さえごまかせればと思うような大馬鹿者につきあってやるほど、私は優しくはない。
仮に万一受かっても、本日付で「破門」扱いとなっているので、合格祝賀会には参加させない。
中学生じゃあるまいし、少しは自分の成績と立場と目標を考えたらどうなのだろう。
浪人する人間は、こうしてなるべくして浪人するのである。