5回の表。

監督が審判に対して、投手交代のを告げた。同時に捕手もゴリに代わった。

ついに東京でゴリとのバッテリーが実現した。

思い起こせば9年前、ヤンチャーズを作り、その際は私とゴリのバッテリーでいつも試合をしていた。苦しみながら、嘆きながらゴリはじめみんなと一緒にいろんな試合を戦ってきた。

東京に来て、こんな経験をさせてもらえるとは思ってもみなかった。監督の配慮に驚きと同時に感謝の気持ちでいっぱいだった。

ただ、当の私は緊張でガッチガチになっていた。

投球練習を終え、ついに始まった。内野にとどまらず外野からも割れんばかりのエールが私に送られた。

こんな男にだ。。。もったいないくらいのエールである。

ヒデキが言う「今までの思い!ぶつけたれ!」。ノリが言う「キャップ!思いっきり当てたれぇい!」

その声はグラウンド中に響き渡っていた。ちっきしょう。なんか涙が出そうになる。私はみんなを見ると涙で投げられなくなると思ったので、一切目をあわさず、ただただキャッチャーミットだけを見つめることに集中した。

第1球。思い切り投じた球はミットの真ん中に突き刺さった。

「ストライクッ!」

やった!私以上にベンチや内野陣が「やったぁ!」と声を上げてくれた。

その後も球は安定していた。打者も見逃さず打ちにくる。

しかし、ファールで粘られた4球目、思いっきり手を振り投じた球は、な、なんと胸元近くに流れていった。その球は打者のユニフォームをかすめ、ゴリのミットに収まった。

「デッドボール!」

なんと、去年と同様に先頭打者に死球を与えてしまった。ベンチから監督の「なんでツーナッシングからデッドボールやねん!」と怒りの声が聞こえてきた。

ちっくしょう・・・・・・!またやっちまった。ドラマのような感動的な復活劇はそうはない。

しかし、内野陣は落ち込みそうな私に必死に声をかける。

1塁手のノリはさらに大きな声で「もっと思いっきり当てたれっ!」

2塁手のナベさんは「まだベースはたくさんある。もっと手を振って投げろ!」

遊撃手のヒデキは「さっ!今からや!去年のキャップじゃないところを見せてくださいっ!」

3塁手のハマは「もっとリラックス!キャップ、笑顔、笑顔!」

それぞれが、思い思いの言葉で私を励ましてくれた。こんなもったいないことはない。

ここまでしてもらって・・・・・逃げるわけにはいかない。いや、逃げない。

走者はすかさず盗塁を決めた。開き直った私は、次の打者を二塁ゴロに打ち取り、1死3塁とした。

ここで内野陣は前進守備をとった。しかしベンチからは点差を考えて定位置で守れとの指示があった。

しかし、ヒデキは断固として下がろうとしない。その姿を見てその時は何とも思わなかった。しかしこの行動にはとても深い意味があったのだった。そんなことに気づくことなく、必死の形相でマウンドに立っていた。

ミットをめがけてひたすら思い切り投げ込む。それだけで必死だった。その甲斐あって次の打者を三振に仕留めることができた。

続く打者は今日はノリを完璧に打っている1番打者だった。思いのほか力が入ってしまった。

「ビシッ!・・・・・」なんと打者のおしりに思い切り当てていた。またやってしまった・・・・・。

次の打者にはボールが2球続いた。やばいなぁ・・・・。ダメだダメだ。こんなことをマウンドで考えちゃいけない。

そう思い、気持ちを切り替え投じた3球目、間違いなくストライクゾーンに球が走っていった。

打者がその球を打ちに行く。打球はボテボテの二塁ゴロになる。ナベさんがしっかりと捕球し、ノリに投じた。

「アウト!」その声が響いた。間違いなく私の心に響き渡った。

やっと東京のスコアボードに0を入れることができた。

ここまで何年かかっただろう。私はマウンドから晴れ渡った空を眺めた。東京の空は透き通るほど青かった。