やはり、呼吸が十分にできないし、指先がしびれる。

しかし、試合は待ってくれない。迎える6番に対し、開いたからだから投げ込まれた直球は相手の脇腹をえぐった。ここで死球を与えてしまった。何とも悔しい。

続く7番にはフルカウントまで追い込んだものの根気負けし、四球を与えてしまい、結局2点与え、得点は7-3となってしまった。さらに1死満塁のピンチはつづく。

くそったれ!ここまで来て、やっぱりダメ投手で終わるのかよ!

気持ちは焦るが、体はうまく反応してくれないのであった。気がつくと3者連続四死球の大失態を演じていた。

もう、どうしようもなかった。ベンチから監督がゆっくり歩いてくる。審判に向かって「ピッチャー交代。」と、そう告げた。

投手交代の知らせと同時に、私の投手も終わりを告げた・・・・・。

1年間、一生懸命がんばってきた。でも結局は去年のままの投手だった。必死で変わろうとしたけど、やっぱり無理だった。

何とも言えないむなしさと悔しさがこみ上げてきた。

ベンチに帰ると監督とツジ課長から熱中症の疑いがあるから、氷を首に当てて、日陰で休んでいろとの指示があった。しかしそれだけは断じてしたくなかった。さんざんチームに迷惑かけて、俺だけ日陰で休めるか!?絶対嫌だ!そう心に決め、私はベンチにのこり、咳き込みながら、かすれた届かない声を絞り出し、仲間達に声をかけ続けた。ただ、正直フラフラだった。

しかし、そんな私に対し、マネージャーが優しく冷たい水をついでくれた。最高に冷たく、最高に温かかった。

私の心は悔しさと、うれしさと、みんなの優しさに包まれていた。同時にたまらなく涙が出てきた。

おいおい、泣いている場合じゃないだろう、私の作ったピンチをノリたちが必死に守りきろうとしてくれているのに・・・・・・・そう、自分に言い聞かせた。

その後、ノリは右翼フライを打たれ1点を取られたものの、続く9番を三塁ゴロに打ち取り、この回を終えた。

ベンチに帰ってくるノリに対して「すまん。本当に申し訳ない。」と心から謝った。これに対し、ノリは満面の笑顔で「ドンマイです。一緒に勝ちましょう!」と、そう答えてくれた。

そもそも、私は東京に「投げ」に来たんじゃない。「勝ち」に来たんだ。そう考えると、まだまだやるべきことがある。

しんどいのは俺だけじゃない、ここに立っている全員、私以上にしんどいはずだ。でも、だれ1人弱音を吐かず、自分のことより他の選手のことを励まし、必死で戦っているではないか。

4回表の我々の攻撃。先頭5番のニシモが思い切りの良いバッティングで左翼の頭を越える本塁打を放ち8-4にした。

この男ほど、成長した男はいない。そして、この本塁打が大きな意味を持つことになろうとは、この時点ではだれ1人として、想像しなかったであろう。