汗まみれの女 | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 東京の大学へ入学しても実家の家庭事情から僕は仕送りを断わった。


 授業料は奨学金で賄うが生活費は自分で稼がねばならなくなった。


 結局、東京には大学生活を送るのか出稼ぎに来たのか分からない。


 西武池袋線沿線に四畳半のアパートを借りた。小さな流しとガスコンロは付いていたが便所は共同。風呂も電話もなかった。


 部屋に僕が持ち込んだのは布団とトランジスタラジオくらいだ。金は始末しなければ。


 当時の学生の常識として部屋に備えるテレビ、冷蔵庫、扇風機もなかった。  


 夏が近くなると流石に扇風機の必要性を感じたから電気屋へ行き


「この店で一番安い扇風機を下さい」と言った。それがサムソンの扇風機だった。


 当時のサムソン製品は安かろう悪かろうの典型だった。その通りに一週間で首を振らなくなり、もう一週間で羽も廻らなくなった。


 これは正月頃のブログに書いたが僕は大学の同級生の横浜から通学する女の子と付き合っていた。


 普通はHするのはラブホを利用した。中肉中背の目立たない女の子だった。19歳だが39歳に成っても今と変わらないだろう。

 

 しかしHの感度は良かった。二度目から声を放って逝った。


 ホテルで一戦終わった後、まだ硬くなったままの乳首を触りながら、僕達は大阪と横浜の有名人を並べる遊びをしていた。


 突然、彼女が言った。「錦鯉君のアパートで抱かれたい」


 僕は笑った。「夏は無理。クーラーどころか扇風機もない」


「他に女が居るのね。だから私を部屋に入れたくないんだ」


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 部屋に入った彼女はポカンとした表情を浮かべた。万年床以外なにもなかったからだ。


 部屋は真夏の暑さで膨らんでいた


「冷蔵庫もないのよね」

 彼女は呆れていたが万年床に腰を落とすとワンピースを脱いだ。


 下着だけの若いしなやかな肢体は早くも汗でぬめっている。


 ブラの背中のホックを外すと膨らみを締め付けていたカッブが緊張を解いて、ふっッと緩んだ。


 乳房も乳首も汗まみれで口に含むと塩辛い。人間の汗がこんなに塩辛いとは初めて知った。


 身体から汗が吹き出し抱き合っても肉体同士がヌルヌル滑った。額から大量の汗が滴り目を開けていられない。


 腋下や脇腹や内腿やジャングルの中の渓谷へ唇を這わせると汗の匂いが充満して鼻孔を刺激した。


 はっ。はっ。はっ。はっ。はっ。はっ。はっ。


 結合してゴールに急いだのは熱さの蒸気で窒息しそうだったからだ。


 終わって身体を解いたら驚いた。寝小便どころじゃない。汗でぐっしよりシーツが濡れていた。


 彼女とは2年生になって別れた。君の事は好きだけど、ついていけないと云われた。


 僕もそう思う。少なくとも部屋にテレビや冷蔵庫や扇風機くらいは有る男が良い。


 僕は学籍を置いたまま新宿で水商売の道に入った。