少女A | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 最初に触れた事象に衝撃を受けると生涯忘れられなくなる。


 例えば絵画ならピカソの〔ゲルニカ〕や青木繁の〔海の幸〕


 青木繁の海の幸は画集では何度も観てるがそれほどの感銘は受けなかった。


 ところが肉筆画の前に立っと足が竦んで動けなくなった。絵画には潜在意識を刺激させる何がある。


 音楽が人生に与える影響も大きいと思う。Beatlesで人生が変わった青年は幾らでもいる。


 神戸でバイトして、バイト仲間と阪神高速を車で大阪に戻る時だ。

カーラジオから流れる曲に衝撃を受けた。


「これ誰の歌や」


「お前知らへんのか?中森明菜や」


 何十年前の事を鮮明に覚えてるからよほど〔少女A〕に衝撃を受けたのだ。


 だから僕の中では中森明菜は一発屋の歌手なのだ。レコード大賞をもらっても〔少女A〕を越える歌はなかった。


 これはもうブログに何度も書いたが、僕の現実の少女Aは高校三年間を付合ってくれた彼女だった。


 高校生活最初の日、自分のクラスの教室に行くと16歳の1人の少女に一目惚れした。しかも実質初恋だった。


 僕は学友も勉強も嫌いではなかったが学校は嫌いだった。


 もし三年間彼女が付合ってくれなかったら、多分教師を殴るか出席日数が足りなくて退学していただろうと思う。


 高1の夏休みの終わり頃に僕達は結ばれた。世間一般には桃色遊戯と非難される。ばかばかしい。


 それに16歳同士が結ばれるのは大変なのだ。まずラブホへ行けない。16歳では大人には見えない。


 だからどちらかの家の自分の部屋になる。これが案外難しい。それもお互い初めてでは。


 自販機で購入して帽子だけは絶対に被る。1番最初の時に緊張で手が震えて帽子が上手く着けられない。


 彼女に付けて貰っていたら(つまり始めて女性に触れられた)「あっ!」興奮して吐き出した。


 その後2回は焦って興奮して彼女の閉じた門の前であっけなく沈没した。


 聖書に「なんじ狭き門より入れ」と言葉があるしアンドレ・ジイドの小説に〔狭き門〕もあるが、ご馳走を前にして拷問だぜ。


 彼女だって破爪の恐怖があるはすなのに穏やかだった。いま考えたら天使だよ。


 東京の大学へ行く時に別れた。君は遠距離恋愛出来ない人だからと。


 やがて風の便りで彼女が結婚したのも子供が出来たのも知った。だが僕達が会う事はなかった。


 だから彼女は僕の中で高校生のままだ。市松人形を思わせる雰囲気があり、知的だが気取らず、美人だがおごらず、優しくてユーモアにあふれ、お乳が小さい女の子。


 初めて結合出来た時に潤んだ瞳で僕を見つめた彼女の上気した顔と戸惑った表情が忘れられない。物凄く年上に見えた。