アパートを飛び出して行ったケイトさん。
てっきり東北の実家に帰ったのかと思いきや、その日は普通に競馬をしていたようで…
「7,500円も負けた」
そう言ったかと思うと、急にスイッチが入ったように荒れ始めました。
タンスをバン!と叩き、「カード出せ」と怒鳴るので、私はケイトさんのキャッシュカードを差し出しました。
そして彼はそのまま部屋を飛び出して行ったのです。
……でも、実は私。
ケイトさん名義の口座はすべて引き出して、自分の口座に移していたんです。
残高がないことに気づいたら、きっと怒り狂って戻ってくる。
そう思って、私は急いで荷物をまとめて避難の準備をしていました。
案の定。
数分後に帰ってきたケイトさんは、開口一番――
「ぶっ殺すぞ!」
足は震えたけど、私はもう覚悟を決めていたので、ひるみませんでした。
その場で財布の現金を全部渡すと、ケイトさんは
「アパートも金も物も全部やるから!さよなら!」
そう言って、部屋を出て行きました。
私も「さよなら」とはっきり返したからなのか、ドアは思いっきり叩きつけられて、バタンッと閉まりました。
……やった。自由だ。
心の中でそう叫んで、コーヒーでも淹れようかなと思ったそのとき――
まさかの、すぐに戻ってきたんです。
「え?なんで??今の啖呵はどこいったの??」
戻ってくるなり、ケイトさんは横になって一言。
「旦那様が先じゃないの?」
…??
最初は意味がわかりませんでしたが、どうやら私が肌寒くて上着を羽織ったことが気に入らなかったみたいで、
「旦那様に毛布をかけてあげようかなとか、そういう発想はないの?」
(え?その口で“旦那様”?)
ツッコミたい気持ちを抑えながら、毛布をかけてあげると、今度は――
「なんか違うんだよなぁ」
「なんで暖房消してんの?そんなにケチケチしてどうすんの?」
私「生活費は大事に使いたいの。もし怪我して働けなくなったら…って考えて我慢できるときは我慢してるんだよ」
ケ「脳卒中とかになって貯金もなくなったら?」
私「そのときは行政に相談する。生活保護ってそのためにあるし」
ケ「本気でそんなこと思ってんの?自分でなんとかしようとは思わないの?」
私「病気で動けない人が“自力で何とかする”って、無理があると思うけど」
ケ「誰も助けてくれないよ。さっきお金もらったけど、この家は俺のものだからね~」
ケ「自分で稼いだ金で生活すれば?」
……え?
たった30分前に「アパートも金も物も全部やる」って言ってなかった??
結局、言いたいことを言い尽くしたケイトさんは、私を責め終えると、ゴーゴーいびきをかいて寝てしまいました。
アルコール依存症という病気が、判断力を狂わせていることは理解しているつもりです。
でも、私だって人間。
傷つきます。
「もう振り回されない」そう決めても、結局は振り回されてしまう。
ただ、安心して眠れる夜がほしかった。
あの頃の私は、毎日それだけを願っていました。