この作品は盗用禁止です。

AIに登録してネット監視していますので、ご注意ください。

 

 

『 カケハシ 』

 

第二章 三十円の企み

 

「100人集める言うても、やみくもに声をかけても不審がられるだけや。まずは、話を聞いてくれそうな奴らのところに行こうや」 

 

そう言って動き出した彼らは、まず学内の「文化系クラブ」をターゲットに定めることにした。

 

ガチガチの体育会系よりも、どこか一癖あって日常に退屈している文化系の連中の方が、こういう悪だくみに乗ってきやすいはずだと踏んだからだ。 

 

決行日、文化系クラブを訪問するメンバーは三人。 

 

前島、倉橋、そして茜の三人が選ばれた。 

 

佐伯と山田は「俺らが行くと圧が強すぎるから、いざという時のバックアップや」と勝手に理由をつけて見送った。 

 

その日の前島の手には、もちろん一軍のタブレットがしっかりと握られている。 

 

画面の中には、昨日から深夜までかかった作り込んだ『企みの詳細を図とグラフ』が仕込まれている。

 

14万人の学生数、30円の価値、そして現実とネットが交差する拠点的概念、さらには変人教授とのミーティングの感触までが、カラフルなフローチャートと棒グラフで論理的かつ胡散臭くまとめられている。

 

「よし、準備は万端や」 

 

天気の良い昼下がり、三人は大学近くの緑豊かな公園広場に、まずは集合することにした。

 

秋晴れの心地よい風が吹き抜ける広場には、青空の下でベンチに座り込んでダベる学生たちの姿があちこちに見える。 

 

タブレットを抱えた前島が、眩しそうに空を見上げながらニヤリと笑った。

 

「最高の天気やな。こんな日に、退屈してる学生を一人残らず網にかけるで」 

 

倉橋がタブレットの画面をチラと覗き込み、眼鏡を押し上げた。

 

「図とグラフの出来栄えは完璧や。あとは、こっちの熱量が向こうに伝わるかどうかやな」 

 

茜は軽快に一歩先を歩きながら、広場の奥に広がる部室棟の方を振り返った。

 

「さあ、最初のカモ……いや、未来の同志たちを狩りに行こか、先輩たち!」

 

最高潮に高まった期待感を胸に、三人は文化系クラブの扉を叩くべく、まばゆい陽光の中へと歩き出した。 

 

最初は「そんな怪しい話、誰も聞いてくれへんのちゃうか」と少しばかり心配していた三人だったが、蓋を開けてみると、その予想は心地よく裏切られた。 

 

文化系クラブの部室を回り、前島がタブレットで「企みの詳細を図とグラフ」を見せながら熱弁を振るうと、そこに集まっていた学生たちの目の色がみるみる変わった。

 

就職への漠然とした不安、日々の講義への退屈、そして「このままでいいのか」という澱のような思いは、彼らだけのものではなかったのだ。

 

「それ、めちゃくちゃ面白いやん!」

 

「なんかよく分からんけど、今のレールから抜け出せるなら乗ったるわ!」

 

共感の輪はあっという間に広がり、気づけばその場で仲間になると手を挙げる者が続出。 

 

初日のうちに、目標の半分である50人をいとも簡単に突破してしまった。 

 

勢いに乗る彼らは、さらに次の一手を打った。 

 

その「50人強」の学生たちに対し、前島たちがこう持ちかけたのだ。

 

「ここだけの話にしとくのはもったいない。君らの友達で、他の大学に通ってる面白い奴おらんか?そいつにも声をかけてくれ」 

 

ネットワークの波及力は、彼らの想像を遥かに超えていた。 

 

京都市内には同志社、立命館、京産大、京都大、京都芸大……無数の大学が点在している。 

 

それぞれのコミュニティに所属する学生たちが、SNSや口コミで別々の大学の友人を巻き込み、面白半分、期待半分で次々と連絡を寄越してきた。 

 

数日後。 

 

下宿の二階に集まった倉橋が、ノートに書き込まれた正の字の数を数え上げ、思わず声を裏返した。 

 

多様な個性と、かすかな予感が交錯する中、一つの大きな節目が訪れた。

 

「おい……これ、もう100人超えてるぞ……!」

 

部屋にいた全員が、一瞬の静寂のあと、どっと歓声をあげた。 

 

目標の100人は、ほんの数日で軽々とクリアされていた。 

 

京都市内のあちこちで、若者たちの小さな反逆の芽が、確実に繋がり始めていたのだった。

 

「100人超えたぞ……!」

 

その報告を聞いたときの下宿の熱気は、これまでのどんな瞬間とも違っていた。 

 

紙の上の数字だったものを、名前と顔を持った生身の人間として100人以上も集めたのだ。 

 

五人は、その数字の重みと興奮を胸に、さっそく大学の研究室へと足を運んだ。 

 

重い扉を叩いて中に入ると、相変わらず山積みの文献に囲まれたパイプ椅子で、教授がコーヒーを啜っていた。

 

「ほう、息せき切ってどうしたね。まさか音を上げたわけではないやろ」 

 

前島が、誇らしげにタブレットを突き出した。

 

「先生、見てください!おこがましいですが、あれから文化系クラブを回ったり、他校のツレに声をかけたりして……気づいたら、初期メンバーが100人を超えました!」 

 

倉橋がそれに続ける。

 

「ただの数合わせやありません。みんな今の就活のレールとか、日々の退屈にめちゃくちゃモヤモヤを抱えてる奴らばかりです。ここに図とグラフでまとめたリストがあります」 

 

教授は差し出されたタブレットの画面を一瞥し、それから目の上に立つ学生たちの顔をゆっくりと見回した。

 

その口元に、ふっと深くて不敵な笑みが浮かぶ。

 

「……なるほど。一週間やそこらで100匹のモグラを穴から引っ張り出したわけや。君たちのその執念、悪くない」 

 

教授はコーヒーカップを机に置き、パイプ椅子からガタリと立ち上がった。

 

「100人という数字は、ただの群れや。せやけど、その100人が同じ方向を向き始めたとき、それは社会にとって無視できひん『うねり』になる。……よろしい。私からも、この企みをさらに面白くするための“仕掛け”を一つ授けてやろうか?」

 

教授のその言葉に、倉橋、前島、山田、佐伯、そして茜の息が止まった。 

 

頭の中だけで描いていた小さな悪だくみが、いまや本物の社会を巻き込む巨大な歯車へと噛み合おうとしていた。