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『 最後の仕事 』
第四章 朝の機材
翌朝、旅館の一室に機材が並べられた。
黒田が段ボールを床へ置き、アルミ箔の端を指で押さえて皺を伸ばす。
その手つきには、昔の現場で何度も見た動きが残っていた。
三村がガムテープを渡す。
黒田は礼も言わずに受け取った。
二人にとって、それは礼を言うようなやり取りではなかった。
家庭用ビデオカメラが三台。
それぞれにバッテリー。
ハンディタイプの投光器。
三脚が三本。
仲谷は黙って、それらを見ていた。
「学校の学芸会でも、もうちょっとマシなもん使うぞ」
「こんなんしか揃えられへんかったんや。堪忍な」
竹森が頭を下げる。
仲谷はカメラを一台持ち上げた。
拍子抜けするほど軽い。
「まあ、撮れんことはない」
「撮れる。問題は光や」
黒田が投光器を手に取る。
「暗いところでゲイン上げたら、ノイズ出るやろ」
少し考えてから、黒田が言った。
「ほんならカメラに頑張らせたらあかん。被写体を明るくしたったらええんや」
「名言ちゃう。普通の仕事や」
黒田は窓から差し込む朝の光を見たあと、部屋の隅の段ボールに目を止めた。
「旅館に段ボールないか聞いてこい」
黒田が睨む。
山科はすぐに立ち上がった。
二人はすぐに部屋を出ていった。
「黒ちゃん、相変わらずやな」
「機材が安うても、画まで安うする必要はないやろ」
しばらくして、三村と山科が戻ってきた。
段ボールとアルミ箔。
黒田は床に座り、アルミ箔の折り目を伸ばして端を留めていく。
手際よく、光を返す面を作った。
「こんなもんでええ」
山科は出来上がったものを見て、昔のハレパネより丈夫そうだと感心した。
「現場は材料があれば何とかなる」
森川は、黙ってその様子を見ていた。
黒田は照明を見、仲谷はカメラを確かめる。
三村と山科が必要なものを運ぶ間、森川は現場全体を見渡しながら、画を組み立てていた。
笑い声が途切れたあとも、誰も座り直さなかった。
黒田は反射板を持ち、仲谷はレンズを覗く。三村は紙を押さえている。
さっきまで酒の話をしていた部屋から、酒の気配だけが消えていた。
次に誰がどこへ動くのか。
言われる前に、身体が覚えていた。
主人が持ってきた一眼デジタルカメラのことは、すでに皆が知っていた。
仲谷はレンズを確かめ、使えると判断する。
黒田がハレパネを持ち上げると、竹森も自然に撮影の輪へ入った。
「やっぱり、腐ってもプロやな」
黒田が笑う。
古いだけで、使えないわけではない。
