もしかしたらネタバレもしてしまうかもしれませんのでご注意を。
カズオ・イシグロは皆さんもご存知のノーベル賞作家です。
僕は賞を取る前から僕は読んでましたけど
この作品は、長編としては7作目にあたります。
短編集も一つだけなので
キャリアの割に作品数はとても少ないです。
だいたい5年に一回くらいのペースですね。
超スローペースです
しかし、その分カズオ・イシグロの作品はまだ3作しか読んでいませんが、一冊一冊がとても密度の濃いものになっているように思います。
密度が濃いと行っても、
本自体はかなり分厚いといったわけでもありません。
内容も、むしろサラサラと読めてしまう内容です。
しかし、文章の内容、文体と話の構成、登場人物のセリフ一つ一つ等、相当の時間をかけて練りに練られたのであろうというのが、どの作品についても感じられます。
文章で読ませる作家。
作品自体の雰囲気をしっかりと持ち、文章を味わえる作家というのはなかなか出会えないと僕は思います。
もともと英語の本なので、原文の英語で読んだわけではありませんが、カズオ・イシグロもそんな稀有な作家の一人だと思います。
と、前置きはこれくらいにして、話の内容に入っていきたいと思います。
主人公は老夫婦です。
鬼やドラゴン、不思議な生物が出てくるファンタジーなのに、主人公が戦いなどにとても向かない老夫婦というのが斬新ですよね。
そしてこの作品の重要なテーマが記憶です。
この世界の人々は、色々な記憶をすぐ無くしてしまいます。
全ての記憶を無くしてしまうのではなく、それらは昨日の出来事であったり、大昔の出来事であったりとまちまちです。
老夫婦は、別の所に住んでいる息子の所へ行くために旅に出ます。
旅を進めるうちに、なぜ人々は記憶をなくしていくのかや、老夫婦の過去が少しずつ明らかになっていきます。
そのあたりの、情報の出し方も絶妙です。
夫婦についてというのもこの小節のひとつのテーマであると思います。
老夫婦の名前はアクセルとベアトリスと言います。アクセルとベアトリスはとても仲のいい夫婦で、とにかくアクセルが妻思いの優しい人物として描かれています。
アクセルは、つねにベアトリスのことを、お姫様、と呼びます。
これもすごく素敵ですよね。
イギリスの人は、奥さんのことをそう呼ぶのでしょうか?
老夫婦は旅の中で、二人の仲を確認するため、ある質問を受けます。
それは二人の一番のステキな思い出を教えてほしいというものでした。
うーん、自分だったら何だろう?
ふと考えてしまいました。
年月を超える不変の愛など、めったに見られるものではありません。
作品の中での登場人物のセリフです。
夫婦ってうまくいくほうが珍しい。
作品ではそのように訴えているように思いますし、実際そうだと僕も思います。
ただ、それを悲観するんじゃなくて、難しいからこそ、お互いの努力が必要なんじゃないかと思ったりしますよね。
そして、一番大事なのは相手選びだったりするのかも、とかも思います。
当たり前のことかもしれませんが。
二人は旅を続けます。
記憶を失う原因がわかり、老夫婦はそれを取り除こうと行動しますが、アクセルは記憶を取り戻す事について、次第に恐れるようになっていきます。
記憶を取り戻した後も、二人は同じように愛し合っていられるのか?
失われた記憶を取り戻すことが本当にいいことなのか?
その葛藤は、老夫婦二人の問題でもあり、また記憶を失う人々の住む、この世界の問題でもあるのです。
アクセルはベアトリスに問いかけます。
記憶を失いやすい状態だったからこそ、二人の愛はここまで強くなったのでは無いか?
なるほどなと思わされました。
人は、楽しい記憶より、悲しい記憶や、怒りの記憶の方が残りやすいそうです。
昔、もっと危険な環境で暮らしてきた、人間の本能のせいらしいです。
もし記憶を自由に操れたら?
もし未来にそんな技術が開発されたら、あなたはどうしますか?
そんなことを、ふと考えてしまう小説でした。