TPPと共済 ③「国公共済会だより」に5月7日に入稿した原稿です。次は、6月10日過ぎにアップします。

 420日、TPPに参加する11カ国は日本のTPP交渉参加を全会一致で承認しました。これを受け、オバマ政権は424日、米議会にTPP交渉に日本を参加させる方針を通告しました。これで日本は、7月下旬にも開かれる交渉会合から参加できる見通しとなりました。しかし、通商代表部が米議会に宛てた書簡には「日本は農業や製造業を含めすべての項目を交渉することを確認した」と記されています。安倍首相は日米が合意した412日、記者団に「この日米の合意については、日本の国益はしっかりと守られている」と発表していますが、欺瞞であることは明らかです。それどころか昨年6月に遅れてTPP交渉参加を発表したカナダのファスト国際貿易相は、朝日新聞の取材に対して「後から入った国は、すでに決まったことを覆せない」と指摘しています。国益を損なうことが明白なTPP交渉参加から、一日も早く離脱するべきではないでしょうか。

 さて、前号で保険分野への米国の要求は1993年から始まったことを紹介しましたが、『ガン保険』(第三分野の医療保険)を例にその後の流れを簡単に見てみましょう。199410月の「日米保険協定」で国内生損保会社はガン保険を販売できなくなりました。この時期、日本で「ガン保険」を売っていたのは、アメリカンファミリーほぼ1社だったため、同社がフルに恩恵を受け事実上の独占となりました。その後、日本政府が国内生保の子会社にガン保険の販売を許可する意向であることを察知した米国政府は、日本に再度の保険合意を迫り、1996年に『激変緩和措置』と称して日本の生保子会社の第三分野の商品販売を禁止することを約束させました。日産生命、東邦生命が破綻し、外国資本の軍門に下っていく一方で、1999年にはアメリカンファミリーのがん保険シェアは85%を超えました。その後も第百生命、大正生命、千代田生命、協栄生命が破綻し、2001年になって、ようやく既存の生命・損保「子会社」の第三分野参入が解禁、20037月に「全面」解禁となりました。今でもアメリカの保険資本はガン保険で確固としたシェアを保ちながら、引き続き既得権益確保のために「かんぽ」の第三分野への参入を阻止しようと画策していることはご存知のとおりです。規制緩和といいながら、これでは規制強化です。

 もう一つ、共済が規制の対象となった2006年の保険業法「改正」前後の状況を見てみましょう。実は、保険業法を議論していた金融審議会が20041214日に示した「新しい規制のイメージ」では「構成員が真に限定される共済は適用除外」とされていました。ところが翌年3月、金融庁が国会に提出した資料からはその文言が消えていたのです。また、2005812日の「改正」保険業法施行規則案では、県単位のPTA共済は適用除外とされていましたが、同年1228日の最終案では適用対象とされてしまいました。その間の922日、在日米国商工会議所は「都道府県単位の「PTA連合会」による共済等に対しては保険業法を適用すべき」との意見を発表しています。金融庁と審議会が外圧に屈したのは明らかでしょう。このように、米国は微に入り細に入り内政干渉してきています。

「改正」保険業法により事業継続が困難となる共済団体は、規制が完全適用となる20084月までに①保険会社に移行する、②小額短期保険会社になる、③廃業する、のいずれかの道を選択せざるを得なくなりました。いずれもハードルが高いため、医療関係者や自営業者、登山者、PTA、障害者など様々な分野の団体や関係者、個人・研究者等が元に戻すべきと声を上げ政府と国会に働きかけました。その結果、20064月以前から共済事業をおこなっていた団体は一般社団資格を所得することにより「認可特定保険業者」として共済活動を続けることができるように201011月に保険業法が再度改正されました。これは、たくさんの国民の声が集まれば、例え米国の圧力があっても日本政府は無視できないということです。TPPをはじめ原発や社会保障、賃上げと雇用、消費税増税、平和と憲法など課題が山積していますが、教訓とすることが重要ではないでしょうか。

TPPと共済と題して「国公共済会だより」に掲載した原稿です。(4月5日入稿)


 315日安倍首相は記者会見で、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃を前提としないことを確認した」として、自民党の6項目の選挙公約に反してまでTPP交渉に参加することを発表しました。

 この参加表明にあたって、自公政権(民主党も)は、TPPに参加すると国民生活にどんな影響があるのか全くと言っていいほど説明がありませんでした。それは、参加表明の記者会見でも同様で「日本だけが内向きになってしまったら、成長の可能性もない。企業もそんな日本に投資することはないでしょう。TPPはアジア太平洋の「未来の繁栄」を約束する枠組みだ」「TPPがアジア太平洋の世紀の幕開けとなった。後世の歴史家はそう評価するに違いない。その中心に日本は存在しなければならない」と、TPPに参加さえすれば万事うまくいくかのように大変勇ましくはありますが、極めて情緒的なものです。

 ましてや「息をのむほど美しい田園風景。日本には朝早く起きて汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統がある」と言うにいたっては噴飯ものではないでしょうか。美しい田園風景がそこなわれたのは、長年、自民党がおこなってきた減反をはじめとする農業・食料政策の結果にもかかわらず、そのことの分析なしにどうやって守るというのでしょうか。そして「自立自助を基本としながら ~中略 ~ 社会保障制度を守る」と言われても、安倍首相のもとで発足した社会保障制度改革国民会議では「負担・給付の両面で世代間・世代内の公平を図る」という名目で全世帯への負担増が狙われているではありませんか。国民皆保険や国民皆年金という世界に誇る日本の医療と年金制度は残っても、骨抜きにされたのでは私たちの願う社会保障の充実とは真逆になってしまいます。

 こうまでして参加表明したTPP交渉ですが、国民生活にどんな影響が考えられるでしょうか、TPP参加の入場料のひとつとなった「保険」(共済)を中心に見てみましょう。実は、「保険」(共済)に関するアメリカの要求は、昨日今日出されたものではなく、世界一保険好きと揶揄される日本の保険市場をアメリカの保険資本に開放させようと、計画的・段階的、強圧的かつ執拗に要求してきたものです。保険に関するアメリカの要求は19937月の宮沢首相とクリントン大統領の首脳会談にさかのぼります。この会談で市場アクセスを相当程度妨げているとして金融サービス、保険、競争政策、透明な手続き等が示され、保険分野の規制緩和を目的とした「日米保険協議」が19939月から開始されました。同様に、この会談で合意されたのが悪名高い「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(以下、「要望書」という)です。

 19939月から始まった「日米保険協議」の結果、199410月に保険分野の大幅な規制緩和を盛り込んだ「日米保険協定」を結びましたが、その後もアメリカの要求で毎年のように日米保険協議がおこなわれました。この保険協議のなかで、算定会料率の使用義務の廃止や、第三分野といわれるガン保険など医療保険のアメリカ資本の独占が合意され、自動車保険分野ではアメリカ企業の日本進出が進行しました。当初、医療保険の独占を主張するアメリカ資本の進出に警戒していた日本の生命保険会社は、共済を市場と同等の競争にさらすことで権益が増えると判断して、金融庁に共済規制を働きかけるようになりました。金融庁は、アメリカの外圧と生保業界の内圧に屈し、オレンジ共済やベルル共済など共済の名を騙った悪徳商法から消費者を保護する名目で、2005年に保険業法を「改正」(20064月施行)してしまいました。

 従来の保険業法は、保険会社を規制する法律でしたが、この「改正」により共済団体も規制の対象(労働組合の共済は、ただし書きで適用除外)になりました。そのため、全国のPTA共済や知的障害者の入院互助会、労山など山岳団体の遭難対策基金、保険医休業保障共済などなど、まじめに働く勤労市民にとって安い掛金で親身な給付が受けられる大切な組織が運営の存亡の危機に直面しました。

私が勤務する国公共済会が発行する「国公共済会だより」に掲載している『TPPと共済』の原稿です。若干、古いですが順次アップしていきます。



TPPと共済(2013年3月5日入稿分)



「国公共済会だより」新年号の理事長あいさつで「TPPに日本が参加すれば、アメリカの圧力で保険業法の適用となって攻撃され、つぶされるか変質を余儀なくされます」「農業だけでなく、働くものの助け合い共済や雇用、医療など国民のいのちとくらし、食を破壊するTPPへの参加を絶対に阻止するために反対の声をあげていきましょう」とTPPを取り上げたところ、たくさんの方から反響が寄せられました。

安倍首相が国会で228日におこなった施政方針演説では、「TPPについては、「聖域なき関税撤廃」は、前提ではないことを、先般、オバマ大統領と直接会談し、確認いたしました。今後、政府の責任において、交渉参加について判断いたします。」と簡潔に表明しました。党内の慎重派に配慮した結果、参加表明は踏みとどまったということでしょう。

では、ワシントンでおこなわれた日米首脳会談でオバマ大統領からどのような回答を引き出したのか、共同声明の内容を見てみましょう。共同声明のTPPに関する部分は3部構成となっており、(スペースの関係で)要約すると、1部ではTPP参加に際し「全ての物品が交渉の対象とされ」「包括的で高い水準の協定を達成していく」という基本を再確認しています。2部では日本には農産品、米国には工業製品という守りたいものがあるので「最終的な結果は交渉の中で決ま」るのだからお互い「全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束」しないでおこうとしています。3部では米から要求されている自動車部門と保険部門をはじめとする懸案事項について二国間協議を継続することとしています。

ちょっと視点を変えてアメリカ側から見ると、①TPPに参加する場合は「全ての物品が対象とされること」を日本に再確認させ、②日本は農業を、アメリカは自動車産業を守りたいことをあらためて共通認識とするとともに、③引き続き、「自動車」と「保険」について日本に努力することを約束させた声明ということになります。オバマ大統領から譲歩を引き出すどころか、安倍首相がオバマ大統領に歩み寄った内容です。

 では、なぜ「自動車」と「保険」が共同声明に盛り込まれたのでしょうか。アメリカは昨年、TPP交渉に日本が参加するには、アメリカが従来から要望していた自動車・保険・牛肉の3分野で譲歩することを求めてきたことにあります。狂牛病問題発生以降、日本が牛肉の輸入基準としてきた20カ月齢以下を今年21日から30カ月齢以下に緩和しました。この牛肉の輸入緩和について農業協同組合新聞は、「TPP交渉参加を認める「入場料」としてまずこの問題(牛肉)の解決を求め」たものであり、「米国からの圧力ではなく科学的根拠に基づき十分に検証し、消費者が納得できる議論が必要だ」と報道しています。残念ながら牛肉の輸入基準が緩和されたため、残りの入場料として「自動車」と「保険」が今回の共同声明に盛り込まれたのです。

マスコミは、「聖域なき関税撤廃」が確認されたことをもってTPP交渉参加が既定路線であるかのように報道していますがどうでしょうか。TPPは、関税が撤廃されるので輸入品が安くなる、外国に輸出するときも税金がかからないので物を売りやすくなるという単純なことにとどまりません。非関税障壁の撤廃が求められていますので、牛肉のように健康と食の安全基準をはじめ、環境基準、雇用・労働のルール、商取引や金融にかかる規制などの交渉がおこなわれますので、国民生活の全てにおいて影響が、(それも思いもしなかったような影響が)予想されます(「テキスト」と呼ばれる協定の素案は数千ページの分量に上るといわれています)。

実際、どのような影響があるのか(考えられるのか)、これまでのアメリカ側の要求や米韓FTA(米国と韓国の自由貿易協定)、NAFT(米国、カナダ、メキシコの自由貿易協定)を通して次回以降、検証していきます。