ここに、岡田惠和さんの、「TVドラマが好きだった」という本があります。
名脚本家、岡田惠和さんが、心に残る名作ドラマについて書いたものなのですが、向田邦子さんの一本として挙げているのが、「冬の運動会」です。
1977年ですから、いまからほぼ半世紀前の作品です。私など、高校時代にリアルタイムで見て以来の再会です。昨日、ついに初回が再放送されました。
まいりました。一時間が、あっと言う間でした。向田邦子、恐るべしです。
クレジットのトップは、木村功ですが、実質の主役は根津甚八です。当時としても大抜擢だったと記憶しております。
根津甚八扮する菊男は、祖父のコネで就職が決まったのですが、社長、部長、父親、祖父との食事会をすっぽかします。かつて菊男は万引きで捕まったことがあり、就職がうまくいってなかったのですが、軍隊時代の祖父の後輩が、全てを知ったうえで採用してくれたのです。菊男はそのやりとりをドア越しに聞いてしまい、ドタキャンしたのでした。
そんな菊男には居場所がありました。大滝秀治と赤木春恵夫婦が営む、靴の修理屋で、菊男はその店を手伝っておりました。彼が唯一、心が落ち着く場所だったのです。
志村喬扮する軍隊あがりの厳格の祖父、健吉にも、家族には見せない居場所がありました。お世辞にも綺麗とはいえない、藤田弓子扮する加代のアパートで、ドテラを着て、はるか年下の加代に、アゴで使われているのです。
この志村喬が抜群です。あの、「七人の侍」の勘兵衛ですよ。そんな名優のなかの名優、志村喬が、「北の宿から」を唄いながら、まるでヒモのように尻に引かれているのですが、それがまた楽しそうなのです。
木村功扮する父親の遼介は、上場企業の部長ですが、彼にも居場所がありました。市原悦子扮する親友の妻と一人息子で、その親友はすでに亡くなっており、菊男とギクシャクしている彼は、その一人息子と擬似家族のようになっておりました。そう、祖父、父親、息子と、男三人とも、秘密の居場所を持っているのです。
そんな時、菊男は、いしだあゆみ扮する日出子と出会います。靴屋のお客の美容師なのですが、店にライターを忘れていきます。日出子が気付いて店に戻ってくるのですが、店の入り口の小窓に、何も言わず手を入れるのです。
菊男も、何も言わずにライターを渡すのですが、一緒にアメを渡します。日出子は、そのアメを、これまた何も言わずに頬張り、上目遣いに髪を書き上げます。ここで思わず声が出ました。
たまりません。これは、当時高校生の私になど、わかるわけがない。
いささかも古くなっておりません。岡田惠和さんの言う通り、これはまぎれもない名作です。
※志村喬、木村功、加藤治子、大滝秀治、赤木春恵、市原悦子、名だたる名優たちの、真っ当な東京弁を聞く事ができます。これがまた、たまりません。特に、大滝秀治と赤木春恵の下町ことばには、泣きそうになりました。
ただ、このドラマの大滝さんの設定が、五十代なのです。今の私は、当時の大滝さんより遥かに歳上なのです。これは、さすがに堪えました。