とんでもないドラマを見てしまいました。


BSのNHKで放送された、「今朝の秋」です。先日、亡くなった、山田太一さんの脚本です。


蓼科で、一人住まいをしている、鉱造のところに、息子、隆一の妻、悦子が訪ねてまいります。


隆一が、肝臓がんで、余命いくばくもないというのです。鉱造は、東京の病院にかけつけますが、そこで、かつて別れた妻、タキと再会します。


何がとんでもないかと申しますと、鉱造が、笠智衆、隆一が杉浦直樹、悦子が倍賞美津子、そしてタキが杉村春子なのです。しかも、小料理屋を営むタキのところで働いているのが、樹木希林です。なんというキャスティングでしょう。


鉱造は、自分と隆一を捨てて、家を出たタキのことを、何を今更と拒絶します。ある日、自分の余命を知った隆一は、鉱造とふたりで、病院を抜け出し、タクシーで蓼科に向かいます。


小津安二郎の傑作、「東京物語」で親子を演じた、笠智衆と杉村春子が、夫婦を演じるのですが、大ベテランの、日本屈指の名優ふたりが揃うだけで、ぞくぞくします。そこに、私の大好きな、山田太一作品の常連、杉浦直樹が絡むのですから、たまりません。


蓼科で、悦子と娘、樹木希林扮する美代も一緒に、家族が数日暮らします。悦子は不倫をしていたし、タキは、隆一とずっと逢っておりませんでした。みんなが揃って、和気あいあいとして、夏みかんを食べているのを見て、隆一は、家族っていいなと、錯覚してしまうと呟きます。


そう、隆一は、わかっているのです。余命わずかな自分のために、仲の良い家族のふりをしているということを。


隆一が亡くなり、葬儀も終り、みんなが帰ったあと、オープニングと同じように、鉱造は、ひとりで洗濯物を干しております。しかし、今は、家族が集う喜びを知ってしまいました。私には、このラストは、「東京物語」のラストがだぶって見えました。


私は、初めて見ましたが、1987年のドラマですから、今から36年前です。何せ樹木希林が、まだ中堅の扱いです。


とにかく、笠智衆と杉村春子が、もう良くて良くて、泣きそうになりました。着物のきこなし、佇まい、話し方、何もかもが、昔、私が見た年配の方々なのです。鉱造が、ピンキーとキラーズの、「恋の季節」を唄うところなど、二度と見られない名シーンです。


音楽は武満徹、演出は深町幸男と、磐石の布陣です。奇をてらわない、オーソドックスな演出は、山田太一の世界を引き立たせておりました。


※そして、今日は、地上波で、山田太一さんを敬愛する、脚本家のメッセージが放送されますが、その面子がすごい。三谷幸喜、岡田惠和、金子茂樹、北川悦吏子です。みんな、ほぼ私の世代で、山田太一作品を見てきたのです。


こちらも必見です。


それと、もうひとつ。


樹木希林が、夏みかんを食べるとき、半分に切って、砂糖をどっさりかけるのです。昔の食べ方って、こうでした。うちの祖母も、そうやって食べておりました。