考えて見れば、NHKで、鶴田浩二、高倉健、菅原文太という東映のトップスターの初主演作品の脚本が、全て山田太一さんというのは、とんでもないことだと、今更ながら思います。


鶴田浩二など、その後も、「獅子の時代」、「シャツの店」と、山田作品に出続けます。よほど気に入ったのだと思います。感情の機微を、あれだけ繊細に描く作品は、鶴田さんにも衝撃だったのでしょう。


で、高倉健のNHK初出演ドラマが、「チロルの挽歌」です。


このドラマに、出演予定のなかった、当時低迷していた阿部寛が、高倉健を訪ねたことは有名なお話で、健さんが口を利いて、ワンシーンだけ出演しております。


高倉健扮する、大手電鉄会社の技術畑の部長、立石が、過疎の北海道のまちのテーマパークに出向します。そのまちには、偶然、大原麗子扮する妻、志津江がおりました。妻は、杉浦直樹扮する、かつて自分が命を助けた菊川と、駆け落ちしていたのです。


山田太一は、明らかに、高倉健を想定して書いております。無口で仕事一途、感情を出さないというキャラクターが、健さんにぴったりです。


そして、回りを固めた面子が、とにかく素晴らしい。


散々、東映映画で、切った張ったを演じてきた金子信雄が、町内会長の写真館の店主で、ふたりでタロット占いをするところなど、たまりません。


いかにも叩き上げといった風体の、河原崎長一郎扮する市長、頑固一徹で、家族からも疎まれている、テーマパークに反対する牧場主の岡田英次、静江の父親で、電車の運転士が佐野浅夫。


そして何より、大原麗子と杉浦直樹です。未練はないと言いながら、志津江は立石にコーヒーを届けたり、洗濯をしたりしています。そんな志津江に、菊川は嫉妬します。この、感情の微妙な揺れを、大ベテランのふたりが、見事に演じきります。


ラスト近く、みんなが集まった料亭で、ものすごい数の足音が聴こえてまいります。それは、かつての賑わいがあった頃の、幻なのですが、そこで市長が叫ぶ、「私に何が出来るっていうんだ!」は、このドラマの核心です。


そう、何も出来ないのです。みんなわかっているのです。テーマパークくらいでは、どうにもならないことを。


オープン初日、大変な人数のお客が集まるところで、ドラマは終わります。しかし、それは、私には徒花にしか見えませんでした。


その後、三人の関係がどうなったかは、ドラマをご覧下さい。これは、私も忘れておりました。


※立石の歓迎会で、部下の唄う曲が、小林旭というのも、なかなかであります。


芦別市がモデルですが、ドラマでは架空の名前になっております。当時の人口が二万ですが、それから30年、人口は、さらに半減近くになっております。あの頃の町おこし、第三セクターの類いは、今や死屍累々です。