昨日の、「ダウンタウンDX」で、芸能界最強は誰かという話題になり、故、渡瀬恒彦さんだろうというお話になりました。


渡瀬恒彦さんは、私も大好きな役者でした。そして、渡瀬さんほど、後輩から慕われた俳優もおりません。それは、様々な後輩のインタビューを読むと、よくわかります。


渡瀬恒彦は、座長の鑑のような人だったそうです。偉ぶることなく、温和で、現場をまとめる。裏方まで気を配る。しかし、仕事には厳しく、わがままを許さない。


それは、東映の、やくざ映画全盛の時代に、菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫らの後ろにいて、なかなかいい役が回ってこず、兄である、渡哲也と比較され、主演するのは添え物的なB級作品だった彼の矜持なのだと思います。


以前にも書きましたが、松竹の「事件」に請われて出演し、助演男優賞を総なめにし、数々の角川映画の大作に出演し、確固たる地位を築きました。特に、「セーラー服と機関銃」の昔かたぎの小さな組の若頭は、渡瀬恒彦ここにあり、というものでした。


それでも、死ぬまで東映の関連会社に籍をおき、東映制作の数々のドラマに主演し、片桐竜次、成瀬正孝ら、かつての東映の大部屋あがりの後輩を、必ず脇に置きました。


勘違いしてほしくないのは、渡瀬さんは、あちこちに喧嘩を吹っ掛けていたわけではないのです。


私が、何かで読んだのは、とにかく絡まれるのだそうです。例えばそれが、飲み屋であれば、あまりしつこいと、「ちょっと外にでましょうか?」と言って、数分で、何事もなかったように帰ってくるのだそうです。そして、そういうことを、ひけらかすような性格でもありませんでした。


十津川警部シリーズで名コンビを組んだ伊東四朗さんも、渡瀬さんの人間性を絶賛しておりました。津田寛治が、「特捜9」のレギュラーから降りたのも、渡瀬さんを慕っており、渡瀬さんと苦楽をともにしていたベテランスタッフを外したからだと言われておりました。


そして、テレビでの、渡瀬さんの最高傑作は、私は、朝ドラの「ちりとてちん」だと思っております。妻を亡くして酒に溺れ、落語が出来なくなった咄家を、よりによってNHKの朝ドラという、もっとも渡瀬さんと縁遠いところで演じたのですが、リアルタイムで見なかったことを後悔したほどです。


弟子が、満足に落語ができずに、四苦八苦しているところに、どてらを着た渡瀬さんが、ぬーっと居酒屋にしつらえた高座に向かうシーンは、何度見ても震えがきます。


腕っぷしが強いだけではありません。俳優、渡瀬恒彦は、素晴らしい役者だったのです。