あの名作、「砂の器」を、ここまで無残にぶち壊せるものかと、暗澹たる想いでいたところに、萩原健一さんの訃報が、飛び込んでまいりました。
最近、たくさんの方々が亡くなっておりますが、これはさすがに堪えました。
私の人生には、いつも彼がおりました。
「太陽にほえろ」に登場した、マカロニ刑事を演じたショーケンは、既存の刑事ドラマを見事なまでに破壊しました。ジープで出社し、長髪で、当時流行していたスーツを着こなし、とにかくやたらと走っておりました。
石原裕次郎という、絶対的なカリスマに対し、型破りな若者を演じ、熱狂的な支持を得ましたが、これまた当時では全く考えられない、レギュラー出演者が、殉職するという、新しいスタイルを産み出しました。
この直後、萩原さんは、三つのインパクトを、私達に与えます。
ひとつ、大河ドラマ、「勝海舟」に、岡田以蔵として出演します。そう、人斬り以蔵です。
後にいくつもの名作を産み出した、倉本聰さんとの出会いになった作品です。
10回にも満たない出演であるにも関わらず、私は、ショーケンが演じた以蔵を超えるものを、未だに見た記憶がありません。
貧しい家の出で、暗い眼差しをし、武市半平太の言われるままに、暗殺を繰り返す以蔵は、捕らえられ、処刑されるのですが、松方弘樹の勝海舟、藤岡弘の坂本龍馬ともども、私のベストでした。
次が、「傷だらけの天使」。私立探偵、木暮修です。亨役の水谷豊とのコンビは、未だに語り継がれるもので、このふたりに憧れて、役者になった方々が、どれだけいることか。そして、このドラマにインスパイアされて、どれだけの作品が創られたことか。
それこそ、いまのコンプライアンスならば、絶対に製作できません。なにもかもが、引っかかります。視聴率も決して良くはなかった。しかし、放送終了後に、どんどん称賛する声が拡がり、私の記憶が間違っていなければ、再放送のほうが、視聴率が良かったはずです。
そして、「青春の磋跌」。
神代辰巳監督と組んだ、この映画は、私の生涯のベストです。この作品におけるショーケンは、全てがかっこいい。映像も素晴らしい。音楽も素晴らしい。なにもかもが、斬新でした。
神代監督とは、「傷だらけの天使」でも組みましたが、何せ日活ロマンポルノのひとです。それは、生々しいものでした。
この、奇跡ともいえる三つの作品が、わずか一、二年の間に創られたのです。倉本聰、深作欣二、神代辰巳、市川森一、時代は間違いなく、ショーケンを中心に回っておりました。
この後の、再度倉本聰と組んだ、「前略、おふくろ様」で、役者、萩原健一の名前は、揺るがないものになりました。髪をバッサリ切り、板前の修行をする、片島三郎、通称サブちゃんは、今までのショーケンとは、まるで違うキャラクターを、見事に演じました。
また、田中絹代、北林谷栄、八千草薫という大ベテラン、桃井かおり、坂口良子という、旬の女優、梅宮辰夫、室田日出男、川谷拓三、志賀勝ら、バリバリの東映ヤクザ映画の面々という、共演者にも恵まれ、ドラマにおける、ショーケンの代表作になりました。
さらに、音楽の世界にも、再び乗り込み、井上尭之、大野克夫、そして柳ジョージと、かつてグループサウンズで繋がりのあった面々と組み、こちらでも傑作アルバムをリリースしました。
しかし、その絶頂期に、逮捕されます。覚醒剤です。それから、何度捕まったことか。
近年のショーケンは、危ないおじさんというイメージばかりで、メディアに登場することは、めっきり減っておりました。
しかし、NHKの、「不惑のスクラム」に出演し、このときの彼をみて、私は、大河ドラマ、「麒麟がくる」で、斉藤道三を演じるのではないかと予想しておりました。
思えば、もう半世紀近く、私は、ショーケンを見てまいりました。それでも、まだしばらく、枯れた味わいの彼を、見ることができると、勝手に信じておりました。
まだ、68です。早すぎます。長く闘病していたそうですが、クスリのことも、少なからず影響していたのでしょう。
私にとっての、ひとつの時代が、今日終わりました。
合掌。