およそ3年前から始められた。
彼は正直な人間だから話していてとても気持ちがいい。
釣りビトが15センチの魚を釣り上げたのに
いつの間にか30センチの魚を釣ったことになっている
タイプの人間と違い、分からないものは分からない。
知らないものは知らない。
しっかり経験を元にこの患者様に
トライしたが症状の改善は無かった。
と当たり前を当たり前に言える爽やかな
ドクターだから付き合いやすいんだ。
だから、俺も教えを請うこともあるし
逆にテクニックを提供し、時に俺がLAに行くと
共同で患者様の症状にトライすることもあるんだ。
ドクターの名前はドクターL、 LAでも
老舗カイロプラクティッククリニックの2代目だ。
彼は日夜患者様のために新たに
カイロプラクティックの研究を行っているし、
こんな症状をうまく改善できたという話や
どうしても分からない症状を相談してくれる
俺にとっては大事な治療家仲間であり、
今ではまるで古くからの友人のようだ。
半年前、全くもってドクターが
歯がたたなかったという患者様を紹介されたんだ。
2人で一緒になおそうという事で施術を開始した。
やって来た患者様は30代の女性だった。
症状は右下肢軽度屈曲位であり、
これをピンと少しでも伸ばそうものならば
右下肢とくに下腿全体に痺れがビクンとくる症状だった。
体幹はパッと見ただけで『く』の字にひん曲がっていて
右に骨盤が大きく変位していた。
椎間板ヘルニアであるにも関わらず腰痛は全くなく
下肢の痺れと痛みを何とかして欲しいという頼みだった。
ワザとやってんの?ってくらい骨盤は正常位から
骨盤一個分右にずらしたまま立ってみせた。
大袈裟ではない右の腸骨稜にコーラの缶が
乗っかりそうなくらい腰椎移行は左に倒れていたんだ。
しかも、ドクターLが数回治療したものの
なんの変化もなくこんな具合だったと言った。
「マッズい患者様を引き継いじゃったなぁ」
そう思った俺の第一印象は
デンジャラスレベルを超えていた。
二人掛かりで3時間あーだこうだと繰り返したけど
全くもって症状は改善しなかったんだ。
ドクターと俺が汗だくになって
あーだこーだやったけどダメだったんだ。
「ふー 今日のところはこれくらいにしておいてやろうか」
そう言うと相変わらず骨盤を大きく右に
ヅラしながら患者様は帰っていった。
帰り際患者様が70ドルを置いていこうとしたけど
「俺はいらねーだって症状が改善してねーもん。
こんなの受け取ったら恥ずかしくて死にそうだ」
と言った。ホントに悔しかったんだ。
側湾症について研究をし始めていたから、
側湾症というよりも大きくくの字に曲がっている状態
(敢えて側湾症で例えるとC型の歪みだった)
を得意のアドバンスを試したが
全くもって跳ね返されてしまったんだ。
そこからこの形の患者様を日本でくると徹底的に
観察し施術をして成果を上げるまでになっていた。
時にコテンパンにやられてみるのもイイもんだ。
悔しさは最大の勉強の燃料になるからね。
既に半年経った今回、もう一度彼女を
トライさせてくれるようにドクターに頼んだんだ。
自信があったか?勿論あったさ。
それなりに半年間彼女のことを考えて来たからね、
前回よりも必ず成果は出せるハズだ。
彼女は再びドクター Lと俺の元へやって来てくれた。
膝が痛みのために曲がっていたし、膝を伸ばして
内巻きになっている股関節を真っ直ぐにしようもんなら、
お尻が半分右にずれてしまっていた。
以前は両尻分、右にずれていたから
大分マシになっていた様子だ。
しかし下肢の痛みは相変わらずあったし、
歩く時も片足の跛行が認められていた。
痺れは時々あると言っていた。
症状自体はマックスの時よりも和らいでいたが
写真の通りかなりまだ殿部が右に向かいくの字
になっているのが分かるだろうか?
左の膝を真っ直ぐにして内旋している膝を
真っ直ぐにしようもんなら
右のお尻一個分この写真より右に出っ張った。
前回は膝を進展させると痺れがビーんとくることから
上手く観察することができにくかったが
今回はじっくりカラダを観察することができた。
驚いたことに
KYT理論で考える変位と逆パターンをしており、
戸惑ったが落ち着いて考えているうちに
何故このように変位してしまったのかがわかった。
持って来た理論を当てはめ
施術をしたけどやっぱりダメだった。
クソォ クソォ クソォーー
また苦汁を飲むのか?
通常短下肢側に出る症状がなぜか
長下肢になっていてい俺を混乱させた。
ふと思い出したのは、
以前ドクターL が下腿から下だけを解したら
痛みが消えたことがあったんです。
と言うのを思い出したんだ。
俺は腓骨を持ち上げて検査したんだ。
するとその途端に痺れも痛みも消えてしまった。
その目で見てみると別のストーリーが見えて来た。
彼女の足先を見ると小指重心であることが分かった。
何度も捻挫でもしたんじゃないのかなという症状に見えた。
もちろん以前も腓骨にフォーカスしたはずだったけど
急性期過ぎてなんの変化もなかったと記憶している。
急性期が過ぎてくれたおかげもあってカラダは
素直になっていて、足首を外返しした状態では
痛みも痺れも無くなっていた。
ところが痛みや痺れは無くなったのに一向に
骨盤は相変わらず右に大きくずれていた。
痛みや痺れは怪我から来ていたのか、
そしてその逃避の姿勢から骨盤が変位してしまい
椎間板を圧迫しヘルニアを作った可能性があるな。
ドクターLも俺もそう思った。
すると後は椎間板ヘルニアの症状を
作っている部位を解除する必要がある。
ドクターLと俺はその部位への
アプローチを行い、もう一度立たせたんだ。
彼女の背骨は真っ直ぐになっていた。
真っ直ぐに経っている彼女を見て
しばらく呆然としていた。
あれ?真っ直ぐだ。
「私なんか変な立ち方してません?」
と言って彼女は俺達に振り返ったが以前は
こんな自然な振り返りはできなかったんだ。
心の中で大声で叫んでいた。
喜びを大声で叫んでいたんだ。
ドクターLだって同じ気持ちだった。
目を合わせハイタッチを決め患者様を歩かせた。
恐々歩いていたけど指導を繰り返しているうちに
通常レベルのスピードで歩き出し速足ができ、
最後は少しだけ小走りが出来た。
結局持って来たテクニックは影を潜めたが、お陰で
素晴らしいモノをロサンゼルスで得ることができた。
次の日、俺はドクターのお宅で開かれる
ポーカーパーティーに招かれた。
そこで1人肩の具合が悪い男性がいたんだ。
外転すると肩が痛い。そして外転位から
外旋すると痛くて堪らないと言った。
この外転を見た瞬間 俺は分かった。
肩の痛みのために僧帽筋が収縮し、外転しているように
フェイクモーション(嘘の動き)をしていたんだ。
肩甲骨の動きは問題なかった。
問題なのはインピンジメントのような症状だった。
これは人体解剖学実習を経験したから分かったモノだ。
関節包の問題ではなさそうだった。
つまり三角筋の問題だったんだ。
コレを改善するのにさほど時間はかからなかった。
ポーカーで盛り上がる笑いは深夜まで
ドクターの自宅で鳴り響いていた。
俺は症状から逃げるのが嫌いだ。
もしも症状の改善がなく次の予約の方の
せいでタイムアップになってしまった時
俺はポーカーフェイスで
「今日はここまでにしましょう」
と表情を変えずに言っているけど
その心の裏では悔しさで泣いている。
その晩俺は悔しくて眠れない。そして学ぶんだ。
でも、それの苦しみの積み重ねしか
治療家人生を豊かにす術はないと信じている。
アメリカツアーを終えた俺をLAX(ロサンゼルス空港)へ
ジャーマネ藤田マンが送ってくれる時不意に言ったんだ。
「ずっと治療家KenYamamotoを見て来ましたけど、
大分成長したんじゃないですか?最近特にそう思います」
ジャーマネ藤田マンは俺にとって
一番冷静でなかなか褒めないオトコなんだ。
「そうかぁ?まぁまぁだな」
照れ隠しにそれだけ言うとクルマを降りて
「じゃぁ東京で」
と言ってアメリカ風のハグをすると
別れて俺は全日空のカウンターに向かった。
トイレの個室で1人になって
ホッとしてようやく気が抜けたんだ。
「いやぁ成長しちゃったのかなぁ僕ってばぁ」
そう照れているのも東京に到着するまでの間だけだ。
帰国したら腰痛さんが待っているという連絡を貰っているんだ。
世界の腰痛を治したいという野望を叶える道のりはまだ遠い。




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