生献体の人体解剖学実習室を終えて
8時半から始まった人体解剖学。
昼休憩のときには放心状態となっていた。
今まで学んできたホルマリン漬けの御献体と比べて
まるで生きている人そのものの皮膚だったんだ。
学生が使っているメスではなくプロ用のメスを渡され
解剖を開始するんだけどもホルマリン漬けの皮膚は
線をサーっと引くと左右にふぁぁーっと切れ目が
入っていくのに、生献体ではプロ用のメスを
もってしてもなかなかその様にはいかなかったんだ。
第一印象はまずそこの差に驚いたよ。
次に驚いたのはホルマリン漬けの御献体では
見れなかった皮下組織の柔らかさだ。
ゼリー状の脂肪組織が所々筋肉のストレスを
和らげている緩衝材の様に点在しているのにも驚いた。
さらに次に驚くべきことは大腿部のファシャラタ
をメスを使って裂いていくと大腿四頭筋が
ツルんと外面へと滑り落ちたんだ。
こんなのホルマリン漬けの御献体では
一生わからないと思ったし、生きている人の筋肉は
こんな感じなんだろうなとこぼれ落ちた
大腿直筋を見てそう分かったてしまった。
何という表現が適切かわからないけど
ウナギを掴む様にヌメっていた。
コレはファシャラタの中を滑走
できる様になっているタメに違いない。
以前ハムストリングを包むファシャラタを
起始とする筋繊維があったと書いたけど
生献体をそこまで注意深く見る余裕がなかった。
生献体は解剖しだしたら1日しか肉体がもたない。
徐々に腐敗していくんだ。それに全身を解剖していき
受講生の皆さんにみてもらわないといけない。
鍼灸師の先生達は鍼を刺したいだろうし、
トレーナーの先生は関節を動かしたいだろうし、
柔整の先生は骨を見たいだろうしね。
ドクターと俺の2人だけで生献体を解剖していったんだ。
ハワイ大学の御好意で与えられた御献体
は胸腰椎移行部で分けてくれていた。
つまり胸腰椎移行部から2つに分かれていたんだ。
Kenがショックを受けない様にと
内臓や肺や心臓も取っていてくれた。
でも全身は皮膚から付いていて
そこから2時間半で下半身の解剖を
行わなければならなかったんだ。
必死にドクターについて行くのがやっとで
ドクターが解剖しながら講義してくれるんだけど
とても余裕がなかったりした。
手を誤って切ってしまったら感染する恐れもあって、
でも皆の勉強に役立たせたい気持ちで一杯だった。
ドクターが男性生殖器を取り外した時ドサって音がした。
案外ぶら下げてると分かんないけど重たいものなのね。
恥骨筋や長短内転筋などの内転筋郡は
生殖器の脇にありその位置関係がよく分かった。
とくに動かしながら観察はとても参考になった。
仰臥位を皆さんに披露し終わると今度は下半身を
伏臥位にして後面の解剖に取り掛かったんだ。
皆が一番興味ある仙腸関節に特に気を遣って解剖して行く。
大臀筋はストッキング状のファシャラタは
とても薄く強く、大きい筋肉はいつでも
少しの刺激でも筋ポンプが可能なタメに
こんなにも薄くて平気なのだとドクターが教えてくれた。
下腿のファシャはもっと筋張っていて
少しの刺激でもファシャがリンパ液などを
上行させる仕組みをホルマリンの御献体より
強く理解することができた。
例えば足の指を動かすと膝周りの筋肉まで動きが
出るだとか、アキレス腱を伸ばすをヒップまで
作用するのが分かるほどキネスティックチェーン
を観察するのにもってこいだなと思った。
全てが理にかなっていて美しい。
全くもって無駄がなく素晴らしい。
見ているうちに涙がこみ上げてきた。
鍼灸師の先生が実際に坐骨神経に鍼を刺して、
また陰部神経にさして、後脛骨筋にさして
「Ken先生、自分は今感動で
震えています。泣きそうです」
と言ってくれた時やはり本物を見ると
感動する気持ちが伝わったのか
同じ感覚の人が何人もいて嬉しかった。
後面の解剖が終わると早速皆を呼びに行き
大殿筋や中殿筋のKYTリリースを見せ
その解説を行わせてもらい、梨状筋が股関節内旋
で坐骨神経を圧迫するかどうか皆で検証した。
ところが驚いたことに坐骨神経はさほど
圧迫される気配はなかったんだ。
コレは全員が確認した。本当にコレには驚いた。
梨状筋の前方に指をいれ坐骨神経が
圧迫されるか確認したんだけど
圧迫を受けている様子は感じられなかった。
俺の見解はここで圧迫されることも
あるのかもしれないけど、見た限りでは
ここ以外の原因でないかなと思った。
つまり大臀筋緊張しすぎると
その下にある坐骨神経を圧迫されるとか
もっと他の何かが原因であるに違いない。
この生献体を見れば一目瞭然のものが多い。
坐骨神経を辿っていけば直ぐに分かってしまう。
解説の後は皆に自由に動かしてもらった。
2Dの教科書からホルマリン漬けの御献体で
3Dに慣れていてくれていたせいで
今度は自由自在に3Dを自分の手で動かす勉強に
すすんだみんなは大分カラダを理解した様だった。
昼休憩は放心状態だった。俺だけじゃない
新しい学問が始まってしまった感覚だった。
仙腸関節が動くのかどうなのかという
永遠のテーマに終止符を打つために行われた
ドクターの提案で力自慢の男2人が
左右の寛骨を持ちお互い反対に捻ってみた。
3人目の人は仙腸関節と恥骨結合に指を置き
少しでも動いているかどうか確認してもらった。
顔面が真っ赤になる程
捻ってもビクともしなかった。
全身麻酔状態同様の御献体でも
全くもって変わらなかったんだ。
今度は仙骨はお辞儀するか。
つまり体幹を前屈させると仙骨は腸骨に対して
5〜15度前屈するかという実験も行なった。
コレは微妙に動いていることをほぼ全員が
仙腸関節に指を置いて確かめた。
5度も動いていたかどうかだけど確かに動いていた。
一番動いていたのはL5だったけど。
そもそも大男2人が全力で捻るほどの外力が加わって
カラダをツイストしているとも思えないんだ。
どう思う?
取り方はそれぞれと先日も書いた。
動いてないの見て触っても尚、
いや、生きている人は動くと言った先生も実際にいた。
そんな意見があってもいい。
その先に患者様を良くしたいという気持ちが
あればいいと俺は思っている。とも書いた。
午後は上半身の解剖を急いだ。
肩関節を見たいという先生が多かったからだ。
それに腕神経叢も見て確認してみたいと言われていた。
ある先生がそれを聞いて言ったんだ
「ホルマリン漬けのもので確認したけど射角筋
が腕神経叢を挟み込むのを見てみたいんです。
絶対確認して帰りたい」
それを見て貰いたいと俺は思い一生懸命解剖した。
上腕二頭筋長頭腱が関節包に入り込む部位は
ホルマリン献体ではカチっという感じだったけど
全く違った。ソフトに包み込まれた長頭腱はス
ムーズに滑走しそうな様相を呈している。
半透明な関節包は美しい。柔らかい動きもある。
驚いたことにKYTで提案している
大胸筋テクニックの1番目の鎖骨部は
まったく大胸筋が反応していないことが
わかってしまった。
コレは大胸筋でない部位がテンションか
かっていることがわかり早速修正する事ができた。
生献体はね、その場で自分の理論を実践して
証明する事ができるからこんなにいい教材はない。
間違っていてもその先のヒントをたくさん得る事ができる。
怪しげな理論はコレで殆ど証明できるハズだ。
射角筋の挟み込みは一番驚いてしまった。
首をどの角度に曲げても射角筋の挟まりは起きなかった。
停止部がそもそも間隔が開いて止まっている
バラバラの筋肉。そのスペースを埋めて射角筋を
ペンチすることは今回の生献体を持ってしても無理だった。
ドクターにも立ち会ってもらったし
多くの先生が目撃している。
あるとすれば他の組織が圧迫しているに違いない。
御身体を提供してくださったお方には感謝しかない。
ホントにホントにありがとうございます。
KYTは解剖学を元に出来ていると言っていたけど
ホルマリン漬けレベルの御献体ではそれが正解と
思われたものも訂正箇所が出てきたことに感動した。
KYTを否定することは解剖学を否定していることになる!
と言い切るために、今回の生献体での人体解剖実習は
一歩大きく前進したのは言うまでもない。
多くの先生達が落ち込み、そして始まってしまった
新しい学問(=生献体での人体解剖学実習)
俺達は落ち込んだままではいられない。
立ち上がってコレを極めなければ医師達と対等に
対話をする事など出来ないだろう。特に日本では。
俺は次回もっと上手く立ち回れるし、
もっと沢山の仮説を皆に共有する事ができる。
踏み出せてよかった。
打ちのめされてよかった。
と心の底から今思っている。
Ken
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