新幹線に乗っている間は、フワちゃんとの電話とアンさんからのメールが続いた。
ほとんど席には座らず、連結部分で過ごした。落ち着きを取り戻したとはいえ、これからどうしたらいいのか分からない不安がずっとあった。

気づくと、もう降りなければならない駅だった。急いで席に戻り、荷物を取って飛び降りた。
もう最終の新幹線なので、降りる人もまばらだ。
「あれ?おかしい。最終とはいえ、それなりの主要駅なのに、こんなに人が少ない……。」
そう思った瞬間、降り立ったのが目的地の一つ手前の駅だと気づいた。
新幹線は最終便。すぐに在来線を調べたが、もう目的地へ行く電車はなかった。

かなり距離があるがタクシーで行くしかなかった。
新しい職場での引き継ぎ中。まだ引越も終わっておらず、着任すぐの出向先であり、休むわけにもいかない。
すぐにタクシーに飛び乗った。

タクシーに乗ってすぐ、フワちゃんに電話をした。
もう、自分の心が安定しているのはフワちゃんと話しているときだけだということに気づいた。

2万円ほどのタクシー代を払い、目的地に着いたときには、とっくに日付が変わっていた


フワちゃんは言った。
「今回だけは、あなたが立ち直るまでは一緒にいてあげる。でも、立ち直って普通の生活ができるようになったら、そこでバイバイするから。」
それでもありがたかった。こんな状況でも、彼女は一緒に問題に立ち向かおうとしてくれていた。

ホテルに着き、チェックインの手続きをしていると、アンさんからメールが届いた。
「今どこ?もう着いたでしょ、早く電話しろ。」
まるで命令のような口調だった。

フワちゃんは「スピーカーにしてくれたら、私も一緒に聞く。なんなら私が話してもいい」と言ってくれた。
話してもらうと余計にややこしくなると思ったので、それは断ったが、アンさんとの電話を一緒に聞いてくれることになった。
それだけで、少し心が軽くなった。

部屋に入るとスピーカーにして、アンさんに電話をかけた。
もちろん、もう一台のスマホでフワちゃんにも繋いでいた。
正直、そのときの会話の細部はほとんど覚えていない。
ただ、2つだけははっきりと覚えている。

ひとつは、フワちゃんの連絡先を教えろと言われたこと。
「そいつの生活もめちゃくちゃにしてやる」という理由だった。
意味がわからなかった。
「彼女は関係ない。言う必要はない」と伝えると、アンさんは「弁護士を雇ってでも居場所を突き止めて、家族に全部バラす」と言った。
常軌を逸している。
仮に弁護士を使っても、そんな理由で情報が開示されるはずがない。
まして、アンさんは私の妻でもない。そんな権利があるわけがない。

冷静さを取り戻していた私は、内心「絶対にそんなことはできない」と分かっていた。
それでも、あえて怯えているふりをした。
しかし、彼女はすさまじい剣幕でフワちゃんの連絡先を聞き出そうとした。
結局、最後まで教えなかった。
そして最後に「絶対に調べ上げるから」とだけ言われた。

もうひとつ覚えているのは、彼女が私に離婚を勧めてきたことだ。
「あなたの過去のことは全部聞いた。あなたは普通の人とは違う。おかしい人。過去の過ちも含めて、家族がかわいそう。もう家族を解放してあげたほうがいい。でも、あなたは1人にはならない。私が全部受け入れるから。」

その言葉に、言いようのない嫌悪感を覚えた。
狂気じみたその説得は、私に深い恐怖を植えつけた。
――こいつ、完全に狂っている。