翌日、なんとか出勤することはできた。
だが、最大の難関はここからだった――妻との話である。

仕事を終え、ホテルに戻ってから、あらかじめ「大事な話がある」と妻にメールを送っていた。
夜、妻が家のことを終えた頃に電話がかかってきた。

昨日、新幹線の中で、ある程度の覚悟はできていた。
以前いろいろと迷惑をかけた際、「次に同じようなことがあれば離婚する」と約束していたからだ。
アンさんを異常に恐れていたのは、妻にバレて家族を失うことへの恐怖も大きかった。
だが、どう考えても今回は離婚だろう。
自分のしたことを思えば、仕方がない――そう腹をくくっていた。

電話口の妻は、いつもと変わらぬ口調ながらも、どこか怒気を含んでいた。
何から切り出すべきか迷った末、「離婚してほしい」と言った。

「好きな人ができたの?」
「いや、違う。」
「じゃあ、相手を妊娠させたの?」

そう問われ、違うと答えて今回の経緯を説明した。
相手の年齢を聞くと、妻は深いため息をつき、「一体何をしているの」と呆れたように言った。

「今度同じようなことをしたら離婚」と約束していたことを妻も思い出したのだろう。
離婚される覚悟はできているが、もちろん本当は離婚したくない。
アンさんと一緒になるつもりもないと伝えた。

正直、どんな会話をしたのか細部は覚えていない。
ただ、「もうあなたに対して“好き”という感情はないと思う」と言われたことだけは、はっきり覚えている。
今後のことは今すぐには決められないとも言われた。

だが、アンさんへの対応については考えなければならないと妻に言われた。
経緯を説明すると、妻は即座に「完全に頭のおかしい人」「典型的なメンヘラ女」と言い切った。
「変な女に引っかかったね。バカよね、ほんと」と呆れたように言いつつも、
「そういう人は何をするかわからない。週末帰って話をするなら、絶対に1人で会ってはダメ」と真剣な声で続けた。

「警察に相談して、警察官立会いのもとで会うとかにしないと。次に2人きりで会ったら、何をされるかわからない。」

たしかに、妻の言うことは一理ある。
妻によれば、アンさんから妻への電話はまだないらしい。
私も、もう1人で会うのは怖かった。
妻の助言通り、警察に相談することを決めた。

その間にも、アンさんからはひっきりなしにメールが届いた。
「今は連絡もしたくない。週末に会って話そう」と返信しても、
「今電話したい」「会う前に話しておいたほうがいい」「お互いのためだ」
と、何度も何度もメッセージが送られてきた。

「このままだとあなたは間違った方向に行ってしまう」
――そんな文面を見て、私は思わずつぶやいた。
「間違った方向? 何を言ってるんだ、この女は。」

「今は電話するつもりはない」と伝えると、
今度は罵倒のメールが届いた。
「精神疾患が出たのはあなたのせい」「私に恐怖を与えているのはあなた」

そんな言葉を浴びせられて、電話できるわけがない。
そう返すと、またすぐに別のメールが届いた。
「本当のあなたを理解できるのは私だけ。あなたを正しい方向に導いてあげる。だからずっと一緒にいてあげる。」

もう、こちらのほうがおかしくなりそうだった。