★今日も野次さんと奇多さんが何やら語っている。
野次:久しぶり。奇多さん、元気?
奇多:久しぶりだね。いつもの調子でなんとかやっているけど。
野次:今日は「進撃の巨人」について、いやそうじゃない「知の巨人」について話してみないか?
奇多:その「進撃の巨人」というやつ。
俺は、読んでないし見てない。
さて「知の巨人」ね。
まず「知」とは何か、ネット上の辞書で調べてみた。それによると
事物や道理を認知・判断・推理する精神作用。
また、真理を観ずるところの智慧や、悟りの意にも用いる。
一方、「知識」とは
① 知恵と見識。ある事柄に対する明確な意識と判断。また、それを備えた人。
② 理解すること。認識すること。また、その内容や事物。
「知」と「知識」の意味には、重なるところもあるけれど、違うところもある。
「知」にはある「真理を観ずるところの智慧や悟り」という意味が、「知識」にはない。
「知の巨人」とはいうけれど「知識の巨人」とは言わないね。
野次:なるほどね。「知」の方が、「知識」より深い意味があるとは思っていたけど、そこまでは調べて比べてみなかったな。
参考になったよ。
さて、日本では誰が「知の巨人」だと思う?奇多さんは、まず誰を挙げる?
奇多:そうだな、8月に亡くなった松岡正剛さんだと思うね。
編集工学という新しい学問を開拓した人で、全方位型の知識をもち、その知識を様々な方法で自由に編集し、新しい知見を披露してくれた人だった。
今、松岡正剛さんの著作を同時に3冊、再読しているよ。難しいところも多いけど、勉強になる。
野次:そうきたか。松岡正剛ね。確かにすごい人だね。
新聞のお悔やみ欄では、松岡正剛さんを著述家としていたけれど、実際は、実業家であり、編集者であり、著述家であり、教育者であり、思想家であった。
奇多さんと同じで、松岡正剛さんは僕も若いときから注目してきた人だった。
様々な学問のジャンルについて「広い知識」をもち、「深く理解」している人だった。
豊富な知識を縦横に使いこなし編集することができる稀有な才能をもっている人だった。まさに天才ですね。
僕も松岡正剛さんが「知の巨人」であると認める。
僕にはもうひとり「知の巨人」だと推したい人がいる。
2021年に亡くなった立花隆さんも「知の巨人」のひとりだと思う。
古い譬えだけど松岡正剛が「知の巨人」の横綱ならば、立花隆は大関くらいかな。
奇多:立花隆さんは、何万冊という膨大な量の本からの知識だけでなく、関心を持った人に取材しに行きインタビューすることで新しい知識を得て、それをもとに本に著した人でした。
取材対象に鋭い質問をし、相手から役立つ知識や情報を引き出す能力が人並み外れて高かった。
今、調べて分かったんだが、松岡正剛さんと立花隆さんは、奇しくもともに80歳で亡くなっている。
松岡正剛(1944年1月25日~2024年8月12日)
立花隆(1940年5月28日~2021年4月30日)
野次:そうだね。僕も立花隆さんが「知の巨人」だという見方に賛成するよ。
松岡正剛さんは、万巻の書物から知識を吸い上げ、脳に蓄え、その知識に松岡流の編集を自由自在に施す。そして、まったく新しい知見を見出す。
一方、立花隆さんは、現場に足を運ぶ取材を武器に知識を蓄え、知見を深めていった。
奇多:「知」を数量化してみることができれば、「知の巨人」の程度を比較できるかもしれない。
例えば、「知」の領域というものを定義し、それを図形化して、領域の面積を積分して求める。また「知」の深さを定義し、深度を求める。
抽象性の高い「知」は、数値化するのは難しいだろう。その人の著作や論文の量とそのレベルなら数値化できるだろう。
その人が把握していた学問の分野の数も数値化できる。
その分野についてどのくらい深く理解していたのかもなんとか数値化できるだろう。
野次:さすが理系に強い奇多さんらしい発想だな。
南方熊楠も「知の巨人」だという人がいると思うけど、僕は南方熊楠については評伝を読んで得た知識くらいしかない。だから、「知の巨人」であるかどうか自分では判断できない。
ということで南方熊楠の話はこれでおしまい。
奇多:野次さんが読んだことのある立花隆さんの本で、一番良かったものを一冊選ぶとするとそれは何?
野次:何冊かお勧めの本はあるけど、やはり『宇宙からの帰還』かな。
奇多さんは、昔からの松岡正剛ファンだから勧めたい本がたくさんあると思うけど強いて数冊挙げるとすると何かな?
奇多:先ほど、数えたところ松岡正剛さんの単著と共著を含めると、約30冊は持っている。
その中から7冊だけ選んでみた。
『概念工事』、『空海の夢』
『日本という方法 おもかげ うつろいの文化』
『白川静 漢字の世界観』
『連塾 方法日本Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』
これまでいろいろと本を読んできたけど、松岡正剛さんの本から多くのことを学んだ。
これからも松岡正剛さんの著作は、座右の書として読んでいきたい。
野次:30冊か。僕の持っている立花隆の本は単著、共著、対談本を含めて15冊くらいはあると思う。
今読んでいる立花隆の本は、『サピエンスの未来』(講談社現代新書)。
奇多:そろそろ「知の巨人」の話は終わりにしますかな。
野次:そうだね。そうしましょうか。
奇多:松岡正剛さん、立花隆さん両氏のご冥福をお祈りし、今日の対話を終わりにしましょう。
野次さん、次回もよろしく。