『日本の歪み』を読んで(2) | フォノン通信

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2019年にヤフーブログから移行してきました。
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★前回に続いて鼎談『日本の歪み』から注目したい箇所を抜粋します。

 

今回は日本の防衛費に関して、3人が語る箇所を抜粋します。

 

「防衛費は増やすべきか」という節に注目します。

 

東:2022年の7、8月の調査では、日本の「防衛力強化」に賛成する人が7割を超えています(読売新聞、早稲田大学)。

 

そのさらにまえ、ウクライナ戦争勃発直後の2022年4月の調査では、現在GDP比1%程度である防衛費を「GDP比2%以上に引き上げる」ことについても、55%が賛成している(日本経済新聞)。

 

いまはまた増税反対の流れで世論が変わりつつあるようですが、約1年前には半数以上の人が、防衛費は2倍に増やして構わないと考えていたことになります。

 

茂木:日本で防衛費を増額するというときに問題なのは、それがともすれば技術を開発するためのお金ではなく、アメリカの武器の買い手にしかなりえないところだと思います。

 

日本は軍事関連技術には大学はコミットしないという伝統がありますが、アメリカでは自動運転の技術をはじめ、新技術の開発には国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)から大学などの研究機関へ、かなりの規模のお金が出ています。

 

スペースXだってイーロン・マスクの手柄のように思われていますが、実際にはNASAが巨額の発注を行うことで支えている。

 

宇宙関連技術は軍事技術と区別がないわけで、ミサイル開発者とロケット開発者は同じコミュニティにいる研究者たちです。

 

当然ドローンやAIも然りで、新技術それ自体には民生用か軍事用か、という区別なんてありません。

 

日本ではそれが区別できるというフィクションのもと、科研費が割り当てられてきたわけですが、研究開発への態度はそのままでいいのか。

 

1957年、当時のソ連が人類初の人工衛星、スプートニクを打ち上げました。

 

いわゆる「スプートニク・ショック」ですが、この時用いたロケットはICBMです。

 

だからこそ、単に科学技術が進んでいるという以上の危機感を西側に与えた。

 

英語では、この事象を「スプートニク危機」と言います。「キューバ危機」と同じです。

 

日本語圏では「ショック」と名付けることで何かが隠蔽されているんじゃないでしょうか。

 

もちろん技術がどう使われるかは別の問題で、アインシュタインもオッペンハイマーもそれで苦悩したと言われますが、いずれにせよ、そういうところまで議論しない限り、防衛費を2倍にしたところで「アメリカからたくさん武器を買いました」というだけで終わりかねないですよね。

 

東:僕は、自衛隊は合憲化するべきだし、学術会議も軍事研究を認めるしかないと思っています。

 

しかし、日本のリベラルは絶対に認めない。

 

ギャップが埋まるまでの道のりは長いと思います。

 

茂木さんの懸念される通りになるのではないですか。

 

養老:そこで頑張る人はどのくらいいるのですか。

 

東:多いと思います。そういう人は上の世代に偏っていて、いずれ世代交代するものだと思っていました。

 

しかし、どうやら再生産されているようです。

 

かつては視野が広かった人が、年齢が上がるにつれ頑固な左翼になっていくのを見るにつけ、これは「世代」の問題より「年齢」の問題なのかもしれないと思えてきました。

 

養老:大学紛争のとき、学生が全共闘の暴力に対抗すると言って、何をするのかと思ったら竹槍の訓練を始めたことがありました。

 

だから、その感じはとてもよくわかります。

 

「非国民」とか「竹槍」とか、そんなものはなくなると思っていたものが世代を超えてまた出てくる。

 

柳田國男の世界になっちゃうけど、根っこにそういうものがあるんじゃないでしょうか。

 

東:右翼的な「竹槍」みたいなものが根っこにある一方、左翼的な「絶対反対」もまた根っこにある。なかなか変わらないですね。

 

★今回、抜粋したかったところは以上です。

 

今回の抜粋した部分では、特に茂木健一郎氏の発言に腑に落ちるところがありました。

 

新技術それ自体には、民生用か軍事用かの区別はないという指摘は正にその通りです。

 

例えば、ドローンは、私たちの周りでは民生用に使われていますが、ウクライナ戦争では戦場で武器として使われています。

AIも民生用にも軍事用にも利用されています。

 

人工衛星のスプートニクは、ICBMの技術を使って打ち上げられていたのですね。初めて知

りました。

 

*東浩紀氏が述べている「世代」の問題なのか「年齢」の問題なのかという箇所も興味深いですね。

 

そこで、人が年齢とともにどう変化するのか、そのいくつかのパターンを考えてみた。

 

かつては視野が広かった人→頑固な「左翼」になる

かつては視野が広かった人→頑固な「右翼」になる

かつては「左翼」だった人→保守的になる(よくあるパターン)

かつては「右翼」だった人→極右になる(ありそうです)

 

 

★茂木健一郎氏は、少し学歴が変わっていて、東京大学理学部物理学科を卒業後に法学部に学士入学して法学部を卒業しています。その後は、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了しています。

理学博士であり、法学士でもあるという方なんですね。理系にも文系にも通じている方です。

著書の『IKIGAI』は、32か国、29言語で出版されているようです。ドイツではベストセラーの1位になったことを自身のYouTubeの動画で語っています。よほどうれしかったのでしょうね。

 

★鼎談『日本の歪み』では、養老孟司先生は東浩紀氏、茂木健一郎氏に比べて、発言量は若干少ないです。

 

若い二人にかじ取りを任せている感じです。ベストセラーの『バカの壁』が出版されたのが21年前の2003年でした。

最近、『バカの壁』を再読しています。

 

ちなみに3人の生まれた年は、東浩紀氏が1971年、茂木健一郎氏が1962年、養老孟司氏が1937年です。50代、60代、80代の三賢人ということになります。

 

 

*鼎談『日本の歪み』からの抜粋は続ける予定です。

 

*お読みいただきありがとうございました。