デイヴ・グルーソン著『サイレント・アース』を読んで(9) | フォノン通信

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☆備忘録(9)

☆9章 緑の砂漠

章のタイトルが「緑の砂漠」とは、意味深である。


一面の緑なのだが、生物によっては生息し難い環境になってしまうことなのであるが、その解説はこれから行われる。

【引用開始】
植物が光合成で育つという営みは、太陽光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水を糖に変える奇跡のようなプロセスだ。

植物は成長するためにさまざまなミネラルも必要で、主に土壌から根を通じてそれらを取り込んでいる。

とりわけリン、カリウム、窒素という三つの元素は十分必要であるほか、その他多くの元素も微量ながら欠かせない。

こうした栄養分がないと植物は生育が遅れ、作物は不作になる。

どの栄養素も植物が利用できる化合物の形で存在していなければならない。

たとえば、空気の大部分は気体の窒素だが、気体の窒素そのものはほとんどの植物が利用できず、役立たないものだ。
【引用終了】

☆ここから栄養素のひとつの「リン(P)」についての解説になる。

【引用開始】
いまでもリン酸肥料はリン酸塩に富んだ岩石から抽出されている。

再生可能な資源ではないから、やがて枯渇するだろう。

誰かが猫のミイラの大量発見でもしない限り、リン酸塩の原料として使えそうな資源はない。

資源の減少が原因でリン酸塩の生産が減少に転じる「ピーク・リン酸塩」が、早ければ
2030年に訪れる可能性があるとの指摘さえもある。


これは大きな議論を呼んでいて、リン酸塩に富む鉱物の埋蔵量は予想よりもはるかに多いだろうとの推定もある。

しかし、埋蔵量の大部分は係争地である西サハラにあり、現在はモロッコによって生産と輸出が行われている。

世界の食料生産が一国に支配されているような状態だ。
【引用終了】

☆リン酸塩に富む鉱物がやがて枯渇することを知らない人は多いだろうと思う。

次は「カリウム(K)」についての解説になる。

【引用開始】
植物が必要とする三つの主要な栄養分の二つ目はカリウムだ。

カリウムに富む肥料はよく「カリ」と呼ばれ、数千年にわたって大半の農民は木の灰を主な原料に利用してきた。

19世紀に北アメリカ東部で広大な森林が伐採されて開墾されると、切られた木々が燃やされて一時的に膨大な量のカリが供給された。

カリに富んだ鉱物を地下から採掘する営みはエチオピアで14世紀に始まり、リン酸塩と同様、現在でもカリの主要な供給源となっている。

さいわい、カリ鉱石はリン酸塩よりも埋蔵量が多く、世界での分布もより均等であるため、すぐに枯渇する可能性は低い。
【引用終了】

☆次は、「窒素(N)」についての解説です。

【引用開始】
植物の三つ目の主要な栄養分は窒素だ。

 

硝酸塩の形でしか植物に取り込まれず、採掘可能な鉱物としてはほとんど存在しない。

このため、農家の人々は数千年にわたって動物や人間の糞便と、廃棄した作物でつくった堆肥の形で硝酸塩を作物に与えていた。

(中略)
1909年、ドイツの化学者のカール・ボッシュとフリッツ・ハーバーが、大気中の窒素を取り込んでアンモニアに変える「ハーバー法」を考案し、この手法を用いて、植物が利用できるさまざまな窒素化合物を製造できるようになった。
【引用終了】

☆ここから化学肥料の話題に入っていく。

【引用開始】
農薬と同じく、肥料の使用量は年々着実に増えている。

過去50年で、世界全体で使われた化学肥料の重量は20倍になり、いまや毎年およそ1億1000万トンもの窒素肥料のほか、9000万トンのカリ肥料、4000万トンのリン酸肥料を使用している。

しかしなぜ、肥料の製造や使用が悪者扱いされなければならないのかと、疑問に思う読者もいるだろう。

明らかにこれは食料を貪欲に追い求める人間の視点ではない。

肥料は作物の成長を助けるのだから、害を及ぼすものではないように思える。

(中略)

たいていの新技術がそうであるように、利点ばかりを熱心に追い求めていると、その欠点が見えなくなってしまうことがある。

昆虫の視点で見ると、肥料の使用は壊滅的な結果を生むおそれがある。


たとえば、牧草地に施肥すると草が一気に繁茂して花々を駆逐してしまう。

花が咲き乱れる昔ながらの牧草地は農耕や除草剤の散布をしなくても、化学肥料を一回使用するだけで簡単に破壊できるのだ。


イングランド南西部の大部分は列車や飛行機の窓から見ると鮮やかな緑色をしていて、聖歌「エルサレム」(ブレイクによる『ミルトン』の序詞に曲をつけたもの)に歌われているウィリアム・ブレイクの言葉を借りれば、この「心地よい緑の大地」は野生生物にあふれていると、列車に乗った通勤客は思うかもしれない。

だがそれは間違っている。


その大部分は、成長の早いライグラスだけが繁茂して送粉者を引き寄せない「緑の砂漠」だ。

(註:ライグラス・・・イネ科ドクムギ属に分類される牧草)

牛に食べさせる(単一の)餌を大量に生産するにはいいのだが、ミツバチやチョウにとっては何の役にも立たない。その影響は甚大だ。

(中略)

植物の多様性が乏しくなると、植物を食べる昆虫や送粉者が連鎖的にその影響を受けることは避けられない。

【引用終了】

☆以上の解説で「緑の砂漠」の意味が理解できたのではないかと思います。

必要以上に化学肥料を土壌に与えることでその土地から花々が駆逐されてしまう。

するとそこにミツバチやチョウは来なくなる。


ミツバチやチョウにとってそこは「緑の砂漠」になってしまうのだ。


◆以上、備忘録(9)でした。