坂本龍一・語録(8) | フォノン通信

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★坂本龍一・語録(7)に引き続き、著書『地球を聴く』から坂本龍一さんの発言をピックアップします。

★まず棚田について竹村さんと対話しているところをピックアップします。

(引用開始)
竹村:日本は急峻な地形ですから、雨が沢山降ればあっという間に洪水になって全部流されてしまうところを、灌漑して水田をつくることで水をスローに保持してきた。

 

そのおかげで虫も魚も洪水で卵を流されることなく、繁殖しやすい環境となり、生物多様性が著しく増大した。

 

日本の自然はこうして地球自然と人間が協働して作ってきたもので、いい意味での「人工自然」の環境です。

坂本:棚田は地形を階段状に変形させたことで、放っておけば水は当然重力で落ちていくけれども、そこで水が溜まるようにした。

 

そうするとそこが今でいうビオトープみたいになる。つまり人工のビオトープをつくってきたわけですね。
(註:ビオトープ・・・自然の中に広がる生き物の暮らす場所)


竹村:今は屋上にビオトープをつくったりもしますけど、水田という人工のビオトープをこんなに豊かにつくってきて、日本の草木虫魚(鳥)が豊かなのは人間のおかげというと極端ですけども、半分は人間の仕業。

 

バクテリアが一緒になって地球環境をつくってきたのと同じように、日本の国土というのは人間が一緒になってつくってきたものですから、決して人間は地球のガンだと言って恥じることはない。

坂本:繰り返すけども、何もしなかったらただ山に降った水が海に流れていき土壌も流していくだけのものを階段状にしたことで、新しい生態系ができて、お米も取れるようになり、ある程度の人口も許容できる安定した社会になるということですね。


だから稲作の起源というのも今までは揚子江のような大きな川の河口で生まれたんじゃないかという説もあるぐらい。

 

というのもその方が簡単に水が得やすいわけだから。

 

あんなに広大な河口の平野で水田をつくるというのは、国家とか共同体が大きくなり階級社会が成立して農民階層が生まれないとできないですから、そちらの方が比較的最近のことのようですね。

(引用終了)

★棚田や水田が人工のビオトープであるという捉え方を知りました。

★話題は地球環境の話から歴史に絡む事柄に移っていく。

(引用開始)

竹村:言葉も同じで、征服されるとその征服者の言語が社会的にも通用していくんだけれども、片や村や家庭内では違う言語が喋られている。

 

それが文化の健康さや生命力を担保する。

坂本:例えば日本を平定した大和系ですが、古事記や日本書紀によると王はいわゆる先住系の娘を娶っているので、夫婦で使用する言語は違っていたはずなんですね。

 

そこで生まれてくるのは大和系と先住系のハーフです。

 

そしてお母さんが育てるときは先住系の言葉で喋る。

 

これは困るので子どもを母親から引き離すという伝統が起きてきたと思います。

竹村:平安京を開いた桓武天皇の母方は朝鮮系で、彼には相当色濃く朝鮮系の言語が母語として入っていたかもしれない。

 

そういう多元的なレイヤーを一人一人が内部に持っていることが、これからの地球を考えていく上で大事ですね。

 

自分の外の環境の多様性とともに、内的な多元性をどれだけ担保しているかということ。生態系はもちろんのこと、人間の文化生態学としても大事。

坂本:そう、だからローカリティというのは大事で、逆説的だけれどもインターネットというテクノロジーが普及したことで、逆にローカリティにアクセスしやすくなったり、ローカリティの保護も意識されるようになったという、とてもおもしろいところがあります。
(引用終了)


★二人の蘊蓄に富んだ話が展開されていました。実に面白い解説でした。「人間の文化生態学」という用語は初めて聞きました。


著書『地球を聴く』は、2012年に出版された本です。今でも入手できるか調べていませんが、優れた対話集だと思います。

◇ここで坂本龍一・語録(8)を終わります。