★今回の坂本龍一・語録は、2012年に出版された『地球を聴く』というタイトルの本から坂本龍一さんの発言をピックアップします。
★『地球を聴く』は、文化人類学者の竹村真一さんとの対話を収録した本です。
この本の副題は、「3.11後をめぐる対話」となっています。
この本が出版されたとき、坂本龍一さんは
60歳でした。
竹村真一さんは53歳でした。
竹村真一さんのプロフィール
1959年大阪生まれ。評論家・竹村健一の長男。東京大学文学部哲学科卒、同大学院・文化人類学博士課程満期退学。(財)アジアクラブ主任研究員、東北芸術工科大学助教授、教授などを経て京都芸術大学教授。
では、引用を開始します。
(引用開始)
坂本:竹村さんがおしゃっていることのなかでぼくがとても共感しているのが、人類は未だ幼年期ということなんですね。
生物学的な時間で見ればつい最近まで狩猟採集をしていて、こんなに工業化したのはほんの百年、二百年くらいの話です。
車だって基礎構造は百年変わっていないし、今までのスキームでやっている限りうまくいくわけはない。
ほんとうにホモサピエンスは幼稚なんです。
素人の勘ですけど生物種というのは平均百万年くらい生きるんじゃないかと思っていて、大体「百万年」というと人類は始まってまだ十万年しか経っていない。
ほんの赤ん坊だから知恵も浅い。
人口の増加し始める一万年前までというのは、人口の多少の増減はあるもののほとんど変化はなかった。
一万年前に温暖な気候となり農業が始まったことで人口は少しずつ増加し、そしてこの数百年の産業化でさらに急激に増えた。
つまり、昔は人間ひとりが地球環境に与える負荷は圧倒的に少なかった。
けれども今は、意識や考え方は一万年前とほとんど変わらないまま、動力源としては石油を使用しているから地球に与える負荷は何百倍にもなってしまうわけです。
(中略)
教育の問題で言えば、宇宙の歴史や地球の歴史、あるいは生態系というものを小学校のときからきちんと教えないと、長期的なものの見方ができない。
算数なんて放って置いても足し算、引き算くらいはできるようになるけれど、生態系について教えることはほんとうに大事だと思います。
竹村:まったくそうですね。つまり、「人類は進歩しすぎて自然を破壊しているのではなくて、未熟すぎて破壊している」ということです。
だけど、その未熟さを自分で認識出来るくらいには成熟しつつある。
坂本:自然が複雑系だということが認識されるようになってからまだ三十年くらいしか経っていない。
今まだ一生懸命研究は続けられているけれど、そんな段階ですからね。
(引用終了)
★この著書のなかで、小学校から生態系について教えるべきだという提言しています。
しかし、果たして小学校の教員の中で「生態系」について正しく教えることができる人はどれくらいいるでしょうか。
僕は、教員養成過程の学生に「生態系」に関する講義を受講させたり、実習を義務づけたりする必要があると思います。
(引用開始)
竹村:今よく言われる「サスティナビリティ」の思想は、なんとか今ある地球を維持していこうということですが、そんな消極的でネガティブな発想は、地球に対しても生命に対しても失礼かもしれない。
現在の地球環境は様々な生命系のクリエイティブな改造作業の結果なんです。
坂本:天体としての地球とそこに棲息してきたさまざまな生物のロバストネス(強さ)をもっと認識し、信頼しなくちゃいけない。それが次の段階ですね。
竹村:ダイナミックな地球のプロセスという意味でもう一つ例をあげれば、台風は災害をもたらすといった悪いことばかりではない。
「地球大のミキサー」として海を数千メートルの深さまでかき混ぜて、深層にたまっている栄養分を表面にもたらすことで、海をよみがえらせる。
海の表面で光合成する植物プランクトンに必要なミネラルがこうして補給される。
坂本:死んだプランクトンというのはどんどん下に下がっていくので深層に栄養分が集まるわけです。
台風はそれを攪拌してくれる。
同じような例として川に洪水が起きることもリセットなんだそうです。
十年くらいに一度くらい川が氾濫することが生物の多様性にとってすごく大切、というようなことも最近わかったことですね。
(引用終了)
★以上の対話からも窺われますが、坂本龍一さんは音楽だけではなく広い視野をもった知識人でした。坂本龍一さんにとって地球環境問題は大きなテーマだったようです。
◇坂本龍一・語録(7)はここまでにします。
さらに語録(8)、(9)と続けたいと思います。