☆備忘録4
第1章 物理学の隠れたルール
☆スイスCERNのLHCによる実験について,著者は次のように書いている。
【引用開始】
LHCは稼働開始から数年のうちの,1960年代から存在が予測されていたヒッグス粒子と呼ばれる粒子の発見をもたらした。
私も同僚たちも,この数十億ドルの事業は,誰も疑っていなかったモデルを確かめるだけでなく,それ以上のことを成し遂げてくれるだろうという大きな期待を抱いていた。
LHCがほかにもまだ発見されていない粒子を生み出してくれるに違いないと期待させるような,筋のよさそうな亀裂が物理学の基盤に入っていることを私たち研究者は以前に見つけていたのだ。
だが,私たちは間違っていた。LHCは,われわれが新たに提案した自然法則を支持するものは何ももたらさなかった。
(引用終了)
☆ヒッグス粒子が発見されたのは2012年7月のことだった。
この発見のあとLHCにおける実験で大きな成果はなかった。
☆天文物理学の分野ではどうであろうか。「暗黒物質」の問題が未解決である。
【引用開始】
天文物理学をやっている友人たちも似たような状況だった。
1930年代に彼らは,銀河団が,目に見える物質をすべて合わせたよりもはるかに大きな質量を持っていることを発見した。
観測された事実を説明するには,データに大きな不確定性があるとしても,新しい種類の物質,「暗黒物質」が必要となる。
暗黒物質の重力と思われる引力が存在する証拠はすでに積み重なっているので,暗黒物質の存在を確信している。
だが,それが何でできているかは謎のままだ。それは光を吸収も放出もしない。
地上には存在しない何らかの種類の粒子だと考えている。
その考えを検証できる検出器を建設する指針として,彼らは新しい自然法則,すなわち未確証の理論を考え出した。
1980年以降,数十の実験グループが,これらの理論が指し示す仮説上の暗黒物質を探す研究をしている。
しかし,まだそれに当たるものは発見されておらず,新しい理論は未確証のままだ。
☆宇宙論の分野はどういう状況であろうか。「暗黒エネルギー」の問題が未解決である。
【引用開始】
宇宙論もやはり同様に暗澹とした状況のように映る。
宇宙論者たちは何が宇宙の膨張をどんどん加速させているのか理解しようと報われぬ努力をしているのだが,その観測事実は「暗黒エネルギー」によって引き起こされているとされている。
物理学者たちは,数学のうえでは,この奇妙なものは端的に真空が持つエネルギーであると示すことができるのだが,それでいてそのエネルギーの大きさをまだ計算できていない。
これも,物理学者の基盤に存在する亀裂のひとつで,物理学者たちはそこからさらに奥を覗き見ようとしているが,これまでのところ,暗黒エネルギーを説明するために構築された新しい理論のいずれについても,それを支持する事柄は何も発見できていない。
(引用終了)
☆量子力学基礎論の分野ではどうであろうか。「誰も量子力学を理解していない」と言われてきた。
【引用開始】
量子力学基礎論の分野では,研究者たちは何ひとつ欠陥のない理論をさらに改良したがっている。
彼らは,測定不可能な実体のないものの数学的構造に何らかの欠点があるという信念に基づいて行動している。
リチャード・ファインマン,ニールス・ボーア,その他の20世紀の物理学者のヒーローたちが不満を述べていたように,「誰も量子力学を理解していない」ことに,現代の研究者たちも苛立っているのだ。
量子力学基礎論の研究者たちはもっとよい理論を作り出したいと考える。
そして他の誰もがそうであるように,自分は正しい亀裂に注目していると信じている。残念ながら,これまでのすべての実験が,20世紀に作られた理解不能な理論(量子力学)による予測を支持している。そして,新しい理論のほうはどうかというと,そちらはまだ未検証の推測でしかない。
新しい自然法則を発見しようとするこれらの失敗に終わった試みに,すでに膨大な努力が払われた。
しかし,かれこれ30年以上,私たちは物理学の基盤を改良できずにいる。
(引用終了)
★著者は,以上の文章に「失敗」という見出しをつけている。ここ30年は,素粒子物理学や宇宙論などの分野にブレークスルーは起こらなかったようである。
超対称性理論が正しいことを検証するには,現在のLHCの能力では足りないようである。
CERNのLHCをはるかに超えるエネルギーを作れる新しい加速器を建造する必要がある。
その候補はあるがまだ具体的にはそのプロジェクトは動き始めていない。
その理由は,広大な土地と莫大な建設費が必要となるからである。