J・G・バラード著『ハイ-ライズ』を読んで | フォノン通信

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J・G・バラードのSF小説『ハイ-ライズ』を読み終わった。
J・G・バラード(1930-2009)は,SF界を代表する作家。
代表的な作品に『結晶世界』,『燃える世界』,『クラッシュ』,

『ハイ-ライズ』,『太陽の帝国』,『コカインナイト』などがある。

★『ハイ-ライズ』は,1975年に発表された小説である。

ロンドンにある地上40階の高層マンションが,小説の舞台である。

 

この小説が出版された1970年代には40階建ての高層マンションは珍しかったのではないか。ただこの小説の時代設定は明確ではない。

☆小説は次の記述で始まる。

『あとになって,バルコニーにすわって犬を食いながら,ドクター・ラングは過去三ヵ月間にこの巨大なマンションのなかで起こった異常な事件のかずかずを思い返してみた。』

まず「犬を食いながら」という表現が気になった。不気味な出だしである。

★この高層マンションには,知的専門職にたずさわる人々が住んでいる。全部で一千戸あり,約2000人が暮らしている。

☆このマンションの住人は,敵対する三つの陣営に分裂している。外から見るとマンションの住民は,いかにも均質同等の高所得自由業の人々と見られがちである。
しかし,事実上マンションは,すでに上流,中流,下流という,三つの古典的な社会階層に分かれていた。


★この小説は,各階層の住民の三人に注目して話を進めていく。
下流階層の住民で2階に住む映画プロデューサーのリチャード・ワイルダー。最も戦闘的な人間。

 

中流階層の住民で25階に住む医師のロバート・ラング
 

上流階層の住民で屋上のペントハウスに住む建築家のアンソニー・ロイヤル。
アンソニー・ロイヤルは,この高層マンションの設計をした建築家であり,このマンションの権力者。


☆10階には小学校,プール,スーパーマーケット,ショッピング・コンコース,銀行などがある。

★1階から9階に住むのが下流の階層である。彼らの職種は映画技術者,映画プロデューサー,スチュワ―デスなどで“プロレタリアート”(雇用されている労働者)とみなされ,下流とされている。

☆35階にはプールとレストランなどがある。この35階が中流と上流の階層を分ける境界になっている。

★11階から34階に住むのが中流の階層である。基本的にはおとなしい専門職からなる。
医師,弁護士,税理士などの自営ではなく,医療機関や大会社ではたらく人々である。

☆36階から40階の最上層に住むのが,上流の階層の人々である。

実業家,企業主,テレビ女優,野心家の学者などである。

彼らは,用心深い少数派で,専用の高速エレベーター,ほかより優れた諸設備,カーペット敷の階段を使っている。

★この高層マンションの三つの階層間で争いがおこる。

マンションのエレベーターや電気設備などにも故障が生じる。

次第に動かなくなるエレベーターが増えていく。ずっと停電が続く階もある。

☆『ハイ-ライズ』は,地上40階建ての高層マンションで起こった破壊,略奪,暴力,殺人,狂気の3か月間を書いている。

★この高層マンション内は異常な世界になっている。

階層間の紛争が続いていくなかで,スーパーマーケットもなくなり,レストランも閉店してしまう。

マンション内では食料の調達は困難になる。

そうなったらマンションの外部に食料の調達に行けばよいのだが,マンションの住民はそうはせず,マンションの他の住民の部屋から略奪する。

☆こんな事態になっても住民は,頻繁にパーティーを開いて快楽にのめりこむ。

危機的な状況なのに住民は享楽的なのである。

高層マンション内は不条理に満ちた異常な世界である。

 

★やがてすべてのエレベーターも動かなくなる。

あちこちの階段にはバリゲートができ,通路には瓦礫の山ができる。

管理する者もいなくなり,マンション内はゴミだらけになる。

しだいに住民は飢餓状態になっていく。

いくつもの階で暴動が起こり,殺人も起こる。
食料がなくなり最後にはペットとして住民が飼っていた犬を食べるのである。

まさに異常な状況に陥っていく。

◇『ハイ-ライズ』の評価 ★★★☆☆ 佳作であった。
この小説を無理にSFにジャンル分けしなくてもいいと思った。

再読する必要は感じなかった。

◇この小説は,2015年にイギリスで映画化されている。

僕はこの映画は見ていない。