★『誤読と暴走の日本思想』の著者・鈴木隆美さんは、本書の序章の中で一瞬目を疑いたくなることを言っています。
<本音で言ってしまえば、日本人には西洋哲学は分からない。これは私の偽らざる印象であり、意見であり、考え方である。>
著者の専門は、本書に書かれているプロフィールによれば、プルーストを中心とする19世紀、20世紀フランス文学。哲学的身体論、アルゼンチンタンゴ舞踏論。
と書かかれている。どうやら哲学者ではないらしい。
しかし、「日本思想」に及ぼした西洋哲学を扱う本の著者としては、意外とも言える発言をしているのである。僕は、むしろこう言い切った著者に親しみを感じたのである。
★鈴木隆美著『誤読と暴走の日本思想』からの引用の続きです。
前回に続き、中江兆民について論考を引用します。
【引用開始】
フランスに2年留学し、当時としては最高峰のフランス思想の教養を後ろ盾に、ルソーの哲学、とくに社会契約論とその周辺の思想を輸入したことで、「東洋のルソー」という異名を得た兆民。しかしながらそこには、複雑な形で儒教倫理や道教思想が接木されていくのです。
まず、兆民は西周の作った「哲学」という訳語よりも「理学」という言い方を好みました。これは西周が、あまりにも儒教色が強いので哲学の訳語としては廃棄した言葉です。
しかしながら、兆民は、こと道徳面において日本は西洋に劣らない、洋の東西を問わず、モラルに関しては似たようなところがたくさんある、と考えました。自分は東洋の知恵と西洋の知見を総合し、東洋と西洋の対立を超えた世界哲学を作るのだ、という意気込みに溢れていたのです。その意味で兆民は「哲学」ではなく、「理学」という訳語を使い、自ら「理学者」と規定することになります。
【引用終了】
★中江兆民は、「哲学」を用いずに「理学」を使ったのか?
これについてChatGPTは、こんな説明をした。
兆民は 「哲学」では抽象的・形而上学的すぎ、庶民的な啓蒙に適さない と考え、もっと直接的に「理(ことわり)を学ぶ」という意味の分かりやすい語として 「理学」 を選びました。
つまり、「哲」=賢い・えらい・玄妙、といったニュアンスが排除され、
理(ことわり)=社会の仕組み、人間の本性、政治の根拠 を実際的に理解する学問として再定義したのです。
(以上が、ChatGPTの回答)
【引用(抜粋)開始】
兆民の最も有名なセリフに「日本に哲学なし」というものがあります。
兆民は本居宣長、平田篤胤らの国学、伊藤仁斎、荻生徂徠らの日本的儒学、浄土宗から禅宗までの日本仏教を「哲学ではない」と言い切ります。
兆民はここでは加藤弘之、井上哲次郎などの明治のアカデミズムの哲学者にもすごい勢いで噛みついていきます。
彼ら、国を背負って権威側に立つ知識人を、反逆者兆民はこき下ろすのです。
要するに、加藤も井上も哲学者を自認してはいるが、西洋哲学を鵜吞みにするバカモノだ、というのが趣旨です。そこで兆民の有名なセリフ「日本に哲学なし」という啖呵が飛んできます。
兆民は少なくとも、自分の前には哲学は存在しなかったと豪語します。その上で、兆民は日本に「哲学=理学」を起こそうとします。
【引用(抜粋)終了】
★今回の記事を追える前に、哲学には「世界哲学」という分野があることを最近知ったので、この「世界哲学」について解説した記事を引用しておきます。
「世界哲学」(world philosophy)とは、一言でいえば、
西洋中心の「哲学」概念を脱し、世界各地の思想伝統を対等に扱い、普遍的な哲学理解を再構築しようとする試み
のことです。
● 世界の諸哲学を対等に扱う
西洋哲学(ギリシア起源)を唯一の哲学として扱うのではなく、
インド哲学、中国哲学、仏教思想、アフリカ哲学、イスラーム哲学、ラテンアメリカ哲学、先住民思想 などを「哲学」として同じ地平に置く。
それぞれの伝統の自律性・独自性を認める。
● 比較ではなく「対話」と「交差(トランスヴァーサル)」を重視
「西洋哲学 vs 東洋哲学」といった二元論ではなく、
多元的な対話、相互翻訳、共通の問題意識の創出 を目指す。
● グローバル化した世界での新しい哲学のあり方を模索
近代哲学の普遍主義が欧米中心の歴史性を背負ってきたことを反省し、
人類共通の問題を、多文化的に考える哲学 を志向する。
● 2000年代〜現在:「World Philosophy」が国際的に一般化
哲学史を「グローバル哲学史」として書き換える研究が活発化。
Bryan W. Van Norden や Jay Garfield が “Taking Back Philosophy: A Multicultural Manifesto” (2016) を出版し、アメリカの哲学教育に「世界哲学」を導入する運動を推進。
World Philosophies (Routledge) などのシリーズが刊行。
★この頃から「世界哲学(world philosophy)」は広く通用する専門用語になった。
◆以上が「世界哲学」についての記事です。
*今回はここまでにします。
お読みいただきありがとうございました。
