今は昔 (その8)
今となってはもう昔の話だが、私は九州の片田舎の小学生であった。
悪ガキであった。自宅近くの川を100メートルほど下ると、海へと
注ぐ場所、すなわち河口になっていた。そこには鉄橋が架かり、線路が
敷かれていた。ある日のこと、友だちと河口で釣りをしていた私は、
その鉄橋を渡ってみたくなり、釣り道具はそのままに、友だちを伴って
土手を駆け上がると線路の上に立った。そうして、2人でゆっくりと
歩き始めた。鉄橋の上から水面までは5メートルくらいあり、スリル
満点だった。橋の半ばまで進んだとき、後方から「ピーッ」と警笛が
聞こえた。振り向くと蒸気機関車がやってくる。とっさに私は友だちの
背中をぐいっと押し、水の中へ突き落とした。「じゃっぼーん」と沈んだ
友だちは、すぐに水面に浮き上がり、無事の様子だ。安全性を確認
できた私は、続いて自分も「じゃっぼーん」と飛びこみ、水面から顔を
出した。なんというガキであろう。見上げると蒸気機関車はすでに鉄橋の
手前まで到っており、私たちの悪事を叱りつけるかのように「ピーッ!
ピーッ!」と何度も汽笛を鳴らしながら貨物列車の長い列を「ゴットン、
ゴットン」と引っ張って鉄橋を渡っていったのである。私たちは命拾いを
した。まるで、往年の名画「スタンド・バイ・ミー」の世界ではないか。
そんな時代のある日、地元の高校野球のチームが甲子園で初優勝した。
たいへん感激をした私は、大人になってからこの思い出を小説にし、
本ブログに連載した。そしてこのたび、小説はラジオのドラマになって
大分県にお住まいの方々に聴いていただいたのである。ありがとうな。
OBS大分放送開局60周年記念スペシャルラジオドラマ
クオ原作「みかんの色の野球チーム」、
たくさんのご聴取、どうもありがとうございました!