監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、ガエル・ガルシア・ベルナル
木村佳乃、伊勢谷友介、ダニー・グローバー、アリシー・ブラガ
(2008年/ブラジル・カナダ・日本合作)
英語題:Blindness
お勧め度:★★★☆
『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂(原題:The Constant Gardener)』など社会派ドラマに定評のあるブラジル人監督、フェルナンド・メイレレスがノーベル賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴの『白い闇』を原作に挑む社会派サスペンスドラマ。
舞台はアメリカの某都市。市内を運転中の日本人男性(伊勢谷友介)が突如視力を失い立ち往生している。彼を自宅まで送り届けた男性(ドン・マッケラン)は実は泥棒で、彼の車を運転しそのまま逃走するが、彼もその途中で失明する。日本人男性の診察をした眼科医(マーク・ラファロ)も翌朝起きると目が見えなくなっていた。どうやらこの原因不明の失明は伝染するものらしく、そのことによって町中はパニックに陥っていた。
突如隔離され、まるで刑務所のような病棟に放り込まれる感染者たち。その中には実は幸運にも視力を失わずに済んだ眼科医の妻(ジュリアン・ムーア)も潜り込んでいた。
その後、眼科医に同じ日に訪れていたサングラスの女(アリシー・ブラガ)や眼帯の男(ダニー・グローバー)も施設にやって来る。
ろくに食事も与えられず、狭い部屋のなかで人間として最低の扱いを受けながらも何とか均衡を保っていた彼らだったが、第3病棟にバーテンダー(ガエル・ガルシア・ベルナル)がやって来てから事態が急変する。彼がリーダーとなった第3病棟の連中が、銃を振りかざし、食料と引き換えに金品や女を要求するようになり、独裁を始めたのである。唯一目の見える眼科医の妻は何とかしようとするのだが・・・。
ともするとただのパニック映画になってしまいそうなテーマを、社会派監督として定評のある監督が見事な人間ドラマに仕上げている。平凡な主婦だった眼科医の妻の心を成長を通じ、人間の慈悲や優しさを、そしてバーテンダーの非常な行動を通じて人間の心の闇と悪を描いており、その対比が見事。これは演じるジュリアン・ムーアとガエル・ガルシア・ベルナルの力によるところも大きいのかもしれない。
敢えて登場人物に名前をつけていないことによって、何も見えず、誰からも見られず、何も持たずに施設に放り込まれた人々のアイデンディティの喪失感を上手くあらわしている。医者という地位があった眼科医は何事も上手くとりなそうとするも『お前はいったい何様なんだ。ここではお前のいうことなんて重要じゃない』とあしらわれ、黒人の青年はそうとは知らずに一緒にいる男性に『あのニガー(バーテンダーのこと)を懲らしめてやる』と発言される。人は全てを取り上げられたときどのように尊厳を保つのか考えさせられる。
尊厳、といえば女を要求するバーテンダー達に日本人男性が『俺の妻にはそんなことはさせない。人間には尊厳がある』というのを聞いた日本人の妻自身が『私はほかの皆となんら変わらない。生きていくためにしなくてはいけないことをする。』と言い切る場面は圧巻された。女のたくましさ、というかこういうときに現実的で、なんとしても生きていこうとする力は女性のほうが圧倒的に強いのではなかろうか。
演じる木村佳乃は英語の発音も綺麗で、確かな演技力でほかの俳優人にもまったくひけをとらない。アカデミー監督に認められ、抜擢されただけのことはあるなあと、素直に感動。
それにしても、狭い部屋に閉じ込められ、飢えや不衛生さに苦しむ人々を見て、日本の被災地の人々を思わずにはいられなかった。震災から2ヶ月強たった今でも、自分の国の人々が不安をかかえながらこうして苦しんでいるのを考えるとやりきれない思いが。それでも尊厳を失わず、周囲を思いやり、秩序を保っている日本の人々のモラル、忍耐強さを賞賛せずにはいられない思いでこの作品を観た。