我々が目にすることができるのは、
人間の、人間による、人間のためのサンタ
である。すなわち、人工のサンタ。
これには、2種あるが、一般的なほうは、デパートに
雇われたサンタ。
デパート内の一隅の椅子にかけ、
やったきた子供をひざに抱え上げ、クリスマスの
プレゼントの 欲しい商品を聞き出す係である。
その品物の代金を子どもの両親が支払う
ことは、いうまでもない。
「坊や、
何が欲しいんだい? うんうん。それをプレゼント
してあげようね」などと言っていれば
いいのだから。いい気分にひたれ、カネにもなる。
そばで待っている父親は「感謝は
サンタのほうにいってしまい、カネを払うのは
こっちだ。こんなばかげたことはないぞ!」
「坊や、何が欲しいのかい?」と、サンタに聞かれ、
「ことしは、戦争ごっこのオモチャは
いらないんだ。あんなのはくだらない。
軍縮主義者になったんでね」と答える坊や。
平和愛好の感心な子だなんて思ったりすると、
こんなのに限って「きれいなねえちゃんを
世話しておくれよ」と言い出すのである。
そもそも子どもとは、なまいきなものである。
サンタに品物を注文し、ヒザから
降りてから、「あの、あいそ笑いは、虫が好かないな。
いいとしをした大人が、子どもに向かって
猫なで声を出すなんて...」
などと、ほざくのだ。
その先手を打って、こんなことを話しているサンタ。
「坊やは、サンタの存在を
信じていない。パパとママに言われて
ここへ来たんだろう? わたしだって、こんな
仕事好きでやってるんじゃないし、
坊やがいい子かどうかを知りっこない。
われわれの
共通点は、お互いにそういう環境から
抜け出すには、実力不足ということだよ」と、
身も蓋もない打ち明け話。
たまには、グラマー美女がヒザの上に乗る。
「あたし、サンタの存在を信じているし、
贈り物を信じているわよ。仕事が済んだら、
アパートに遊びにいらっしゃいよ~」
ときには、赤ん坊を、抱いた女性が現れ、
「あなたにもらった昨年のクリスマス・
プレゼントのことで相談が...」
いい気分の仕事とはいえ、同じことの
繰り返しには飽きてしまう。変な子どもが
出現し、やりきれなくもなる しらふじゃ
続かなくなるサンタだってある。そばに
デパートの店員が、つきっきりでカクテルを作り、
サンタに飲ませている漫画もある。
「酒が切れると、あのニコニコ顔が
消えてしまうからな」
ときには、別れた妻がヒザにあがり、
「あんた、そんな変装で逃げ回っても
だめよ。離婚手当のお金を払ってよ」と、どなる。
宣伝のため、街頭へ進出するサンタもある。
ここにも、酔っぱらいサンタは多い、
寒い雪の中、赤ら顔で、にこにこして
いなければならない。酒の力をかりたくも
なるだろう。だが、酔いつぶれたサンタとなると、
こんな みっともない姿もない。
もう1つの異様なのは、警察での光景。
警官が若い婦人に、
「公園で、あなたに乱暴しようとした男は、
この中にいますか?」
と、聞き、容疑者を壇上にあげる。つかまった
数人の男たちが、みなサンタ姿なのである。
目撃した服装をもとに手配すれば、
こういうことにもなるだろう...。
街頭を歩いているサンタ。
ホームレスにつきまとわれ、
「ねえ、酒代をめぐんでくださいよ。
あなた以外に、貧しい者に誰が
お金を恵んでくれます?」
逆にサンタのほうが、あわれになって
しまうのもある。ホームレスになって通行人に、
「旦那、北極の家に帰るカネが無いんです。
お助けください」
とねだったり、ついには金持ちの
中年未亡人の家を訪問し、
「サンタクロースですが、何か、
サービスのご用は...?」
サンタが、歩いていると、火事に出会う。
家の中から、はだかで外へ逃げ出して
きたグラマー美人。
「ありがたいわ、サンタさん。
そのヒゲを、貸して!」
と、腰につけてしまう。
後で、返してもらっても、
それをまた、口のまわりにつけるわけには...。
家へ持って帰って洗濯をさせると、
婦人がノリをつけてしまう。のりのきいた
パリパリの直線的なヒゲをつけた
サンタというのも、これまた妙なものである。
疲れたので電車内で座ると、
「制服の人が、席を占領するなんて...」
と、文句を言われる。
制服には、違いないが、車掌や
警官や軍人とはちがうのに...。
風邪を引いて病院へ行くと、
「北極育ちのサンタが
風邪を引くなんて...?」
と、笑いものにされる。
デパートに雇われたのでもう、
1種類のサンタとは、慈善事業への寄付金集めのため、
街頭に立っている姿である、
寄付金を入れる箱を置き、手で鐘を鳴らして
「貧しき人におめぐみを...」と呼び掛けている。
こっちのほうは、まじめムード。
だいぶ集まったろうにと箱を持ち上げると、
底の抜けた箱だった。そして、その場所は
地下鉄の通気孔の上だったという、
あわれきわまる図のがある。
女性と抱き合ったりしていると、
通行人から、文句がでる。
「寒いのなら、他の方法であたたまれ!
女性といちゃつきたいのだったら、
募金をやめろ。出していい金
ひっこめたくなる」
募金という仕事は、ラクじゃない。しかし、
たまには、こんな光景も有る。逃げてきた
銀行強盗が、警官に追い詰められ、
やけくそになって、サンタの募金箱へ盗んできた
金を放り込む...。
ここまでは漫画だが、そのあと、
警官が見逃してやり、泥棒が雪の中で泣いて
祈り、どこからかクリスマス・キャロルが、
となれば、「オー・ヘンリー」の短編となる。
さらに、その泥棒とサンタ姿の
募金の男がグルだったとなれば、
「ヘンリー・スレッサー」の
短篇となる。警官と募金の男が
ぐるぐるまきだったとなると、
悪徳警官物の小説になる。
その紙幣に暗号文を記入したのが、
紛れ込んでいればスパイ小説になり、
この事件で、銀行が信用を失って倒産すれば、
社会小説になる...。
備考:この内容は、
令和3-12-30
発行:新潮社
著者:星新一
「進化した猿たち
The Best」
より紹介しました。
(筆者の感想)
あの~、YouTube動画も
1分が、1時間かかり、
書籍の丸コピペも、
1ページが、2時間かかるため、
もう、疲れました...。
きゃは!
それで、それで、続きが、
気になるわ~!
うっ...!
何をおっしゃるウサギさん。
このままでは、
朝も眠れません。
きゃは!
冗談は、よし子ちゃんよ。
朝は、起きるものでしょ!
ゲッツ!