当時の農業はみな、農耕馬のメスを
飼っていたんです。
まだ、耕運機や、
トラクターがない時代だから、馬が大切な
労働力でした。馬を使って、田んぼや畑を
耕したんです。また馬は、現金を生む
貴重な収入源でした。
メス馬をうちに連れて来て、種付けをさせるわけです。
馬は子どもを1頭しか
生まないのですが、その生まれた子馬を、
セリで売るんです、売れた金額の何割かが
種付け料として、親父に支払われる
という仕組みでした。要するに、
●▲■して、妊娠しないと、
種付け料が、入ってこないわけです。
その種付けの様子を小さい頃から
見て育ったんですね、私は。それを
小学生のときに、作文に書いたんですよ。
たまたま授業参観のときに、その作文を
読まされたわけです。タイトルは
「お父さん」というものなんですが、中身は
馬小屋での種付けの様子でした。
預かっているメス馬には、発情期と
いうのがあって、妊娠する日が決まって
いるわけです。1年のうちのたった24時間
ぐらいしかないわけですね。
そのタイミングを親父が計りながら、
あて馬っていうのをやるんですよ。要するに、
種馬を馬小屋の中に入れておいて、
こっちからメス馬を連れていく。そうすると、
メス馬がデレッとなったら、
大丈夫なんです。
ところが、なかにはガーンと
噛みついたり、嫌がる馬もいる。
そういうときは、まだ発情期がきていない
ということになります。
こちらは幼いときから、そういうもの
ばっかり見て育ちましたから、当たり前の
光景なんですね。だから、
「メス馬に■ろから、うちの馬が●っかって
▲しました」なんて、子ども心に、見たまんまの
ことを書いたんです。
それを授業参観で
発表したものだから、後ろにいた
父兄もゲラゲラ笑って、お袋は、
「恥ずかしくて、恥ずかしくて、ANAが
あったら入りたかった」と言っていましたが。
だから、もともと人を笑わせようと
する性格だったんですね。
小さい頃から馬の種付けの様子を作文に
するぐらいですから。
周りからは、すごくトンチがきくって
言われていました。
目立ちたがり屋で、先生が教室に入ってくる
前に、先生の机のところで一言
いってみたりね。そういうことはやって
いましたよ。記憶にありますから。先生の質問には、
わからなくても 手を上げていた。
指されると、答えとは違う、何か
面白いことを言ったりね...。
うちの親父もお袋も 尋常小学校卒です。
ただ、親父は読み書きがすごく
長けた人で、自分は町議には出ないんだけど、
応援演説はするとか、そういう人
でした。演説がうまいから、引っ張り
出されるんですね。それが、私に遺伝
したのかもしれません。
書のほうも、あの時代の田舎の人にしては、
達筆で有名でした。役所に提出
する書類などや、お祝い事など、みんな
親父が代筆していたみたいです。いまでも
親父が残した手紙や書を見ると、
「あ～、うまいな」と思いますよ。
映画「オデッセイ」
一方、母のキミは、若い頃から
世間体を気にする 見栄っ張りの女性でした。
挨拶だけは、うるさくさせられた
思い出があります。里帰りすると、荷物を置くと
同時に、近所への挨拶回りを強要するので、
「俺は近所へ挨拶回りするために
帰ってきたんじゃない！」
と言ったこともありました。
「最新型・オデッセイ」
ところが、見栄を張る割りには、
お化粧や服装なんかには無頓着な、不思議な
母でした。いまだに あのアンバランスは、
理解できません。
現在、その母も夫を●くし、
鹿児島の田舎でほそぼそと、ひとり暮らししています。
東京に呼び寄せたいのですが、
母は東京なんかで暮らしたら●んじゃうと
言って、いうことを聞きません。
がんこなところは、私も母親ゆずりです。
ひとりしかいない母、いつまでも
長生きしてもらいたいと、いつも
手を合わせております...。
備考：この内容は、
2009-7-27
発行：PHP研究所
著者：綾小路きみまろ
「有効期限の過ぎた亭主・
賞味期限の切れた女房」
より紹介しました。
一部、脚色した点、
お詫びします。
おや？ これは、
オデッセイではなくて、
オットセイでしたね。
テヘペロ...。