ただその晩、翌日行く予定の観光地を
調べている時に、この温泉街の近くに自●の名所と
呼ばれる場所が存在することを知った。
私の考えすぎなだけかもしれないし、
お女将さんの接客スタイルが人を心配しちゃう
感じなだけかもしれない。けれど もし、
私が、自●志願者に見えて気遣ってくれたのだと
したら...。なんて、考えてしまうと急に
いたたまれない気持ちになってしまった。
翌朝、「私は元気!」というアピールを
するために、朝食をもりもり食べ、昨日の2倍
増しの笑顔で、チェックアウトまでの時間を過ごした。
自意識過剰なのかもしれないが、
気を遣われると、こちらまで気を遣って疲れてしまう。
ホスピタリティもいいが、適度な放ったらかしが、
私には、必要なのだと思った...。
ホテルはホテルでも、きれいで広ければ
良いと言うものでもない。
クレジットカードの特典で、ラグジュアリーな
ホテルに1人で、泊まったことがある。
そのときは空き部屋の関係で、ツインベッドの部屋しか
空いておらず、1人なのに、広めのツインベッドの
部屋に通された。
案内されたときは
人生部屋を独占できてラッキーと、浮かれていたのだが、
夜になり、横並びで置かれた2つの
ベッドを見つめていると、急に寂しさに襲われた。
さんざん1人旅をしてきているはずなのに、
なぜあれほど寂しく感じられたのか? 本来、2人で
泊まれるはずの部屋に1人でいると、
一緒に旅をしてくれる人がいないという事実を
突きつけられてしまうからなのだろうか?
とにかく寂しくて、その晩以降、いいホテルは誰かと
泊まるべきだと強く思った。
そう思うと、やはり1人で泊まることが
前提であるビジネスホテルが最適解だと
思ってしまう。
案内はマニュアル通りだし、ベッドと
デスクのみの、何も飾り気のない部屋だけど、全国
どこに行っても、だいたいのビジネスホテルの
造りは同じだから、慣れ親しんだ部屋に帰ってきた
ような、そんな気になって落ち着けるのだ。
最低限のものしかないから、驚きもない
のだけれど、旅先でいろいろ見てきたからこそ
休む宿はシンプルでいい。
夜ご飯は、コンビニでいい。買い込んだ簡単なもので
サッと済ませられるし、その気張らない
脱力感が私は好きなのだ。
テレビを見ていたら旅先の天気予報が
映って「あ、今 旅行中か!?」と気づく。
それぐらいでちょうどいい。それぐらいが
ちょうどいい。
縁もゆかりもない土地でも、いつもと
同じように迎えてくれるビジネスホテルが
私の定宿になっている...。
備考:この内容は、
2022-1-26
発行:KADOKAWA
著者:SAORI(高山沙織)
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。