正直に言うと、大阪なおみ選手が記者会見に
出ないというニュースを耳にした時、プロなのに
甘いのではないかと思った。人前で、質問を
受けることも トップ選手の責務ではないか?と。
そして、一夜開けて飛び込んできた「うつ病の告白」である。
そこで、感じたは、病気であれば仕方ない
ということだった。しかし、よく考えてみれば、
どちらの反応も問題含みである。
「甘えている」
「みんな、やっていることなのに...」
という周囲の視線が、
心の不安を抱える人を、どれほど追い詰めることか...?
病気なのだからと思考を止めるのも、
コインの裏表であろう、
大阪選手は、大会の棄権を選んだ。
いまは、心身を休めてほしいと願いつつ、
他の道はなかっただろうかと考えてしまう。
彼女のSNSから伝わるのは、競技には
力を尽くしたい。しかし、記者会見の負担は軽減
したいという思いだ。
従来のルールにとらわれず、
下ろせる荷物はないかと考えてみる、スポーツ
ならず、どんな職場でも、必要なことではないか。
誰もが力を発揮するためにも...。
棋士の先崎学さんは、うつ病で将棋界を
一時離れたことがある、そのときの様子を書いた
「うつ病九段」によると、
「将棋界の中に、もう自分の場所がない」
「自分の場所には戻れない」と
思い悩んだという。
辛かったのは、物事を悪い方に悪い方にと、
考えてしまうこと。
一番うれしかったのは、将棋の
仲間から「みんな待ってます」と言われたことだった。
大阪選手をコートで見られる日を、
ゆっくりと 待ちたい...。
(2021年6月2日)
備考:この内容は、
2021-9-30
発行:朝日新聞出版
著者:朝日新聞論説委員室
「天声人語」
より紹介しました。