ちょっと軽いやつで、ちょっと
面白い話をしましょうかね。
私の友人で、私の話にも、ちょくちょく
出てくる、元 J リーガーの山田さん
という人なんですがね。
この人の子どもの頃の話なんですよ。
彼、幼い頃、おばあちゃんの家に
よく遊びに行ったんだ。
で、このおばあちゃんという人は、
自分の家の敷地にアパートを建ててね、
そのアパートの収入でもって生活してたんですね。
彼は。遊びに行くと楽しみがあった。
どういう楽しみかというと、
このおばあちゃんのアパートに、まだ幼稚園
にも上がらないような小さな子どもの
いる若い夫婦がいたそうなんです。
若夫婦の旦那さんのほう、
この人がとっても山田さんを
かわいがっていた。
山田さんも、この人になついていたんですね。
この人はっていうと、山田さんは、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
っって、呼んでいたそうです。
この人土木作業員をしている人で、
学生時代からラグビーをやってる
筋肉隆々の、プロレスラーのような
大きな人だったそうです。
そして、山田さんに、毎回、面白い
話をしてくれたり、遊んでくれた。
これは、その時の話ナんですが、
このお兄ちゃんという人が、仕事が
終わって、その日、
「おい、飲みに行こうや」
って、仲間とみんなで飲みに行った。
相当、量飲めるんだそうです。
酒が強い人で、体も大きいから。
ガンガンガンガン、なんだか知らないが、
気分良くて相当飲んじゃたらしいんだ。
その日。
さすがに、どうやら酔っ払っちゃって、
まあいい気持ちになって、
「じゃあな」
ってんで、みんなと別れた。
別れて。道を歩いていた。
ふだんだったら、なんてことないんですが、
その日、本当に量も飲んだろうし、
どういうわけだか、意識にがもうろうと
するほど酔ったので、
「なんか、どこかでもって、
ひと息入れたいなあ」
と思いながらね、歩いていた。
しばらく歩いていおくと。向こうの
方にまだでき上がってない建設中の
民家があった。
「ああ、家つくってんだなあ」
と思ったので、
「あ、あそこでちょっと休んでいくかな」
と、その家へ行った。
夜でもう暗いわけですから、
中へ入っていくと、奥のほうに部屋がある、
畳を入れる前の板を張った状態に
なっていたので、
「あ、ちょうどいいや、ここなら」
と、人にも見られないしと思って、
勝手に上がり込んで、ゴロンと
横になった。
辺りは真っ暗で、シーンとしてる。
時折、気持ちのいい風が吹いてくる。
ついつい気持ちよくって、酔っ払っ
てるものですから寝ちゃった。
と、時間がどのぐらいたったかは
わからないんですが、なんだか急に
息苦しくて、
「う~っ!」
目が開いちゃった。息ができない。
「う~、うぉ~っ」
(何だ?)
と思って首に手をやった。
と、冷たい手に触ったので、
「えっ!」
びっくりして目が覚めた。
「うぇっ!」
その手が、自分の首をグーッと
締めてる。
「う~っ」
苦しい。夢中でその手をグッと
掴んで、お兄ちゃんは体の大きい人で
力がありますから、力任せに思いっきり
首からはがした。
自分は、ものすごい力で手を
掴んでいるのに、なんと手の中からずるっ、
と抜けてったという。
で、恐くなって、建設中の
その家から飛び出した
「うぉっ! うぉ~っ、びっくりした!
うぉ~っ! 気持ち悪い~っ!なんだったんだ、今のは!?」
ただ、手はぎゅっと、握ったままだった。」
「あれ?」
手の中に、なにか硬いものがある。
「何だろう?」
そう思ってひょいッ。と聞いて見たら、
手の中に指輪があったそうです。
それでね
その時にお兄ちゃんは、
小さな山田さんに
「ちょっと、待ってろよ」
って言って、部屋の中からね、
「ほら、これがそのときに指輪だよ」
って見せてくれたって言いますよ。
それは、
「赤い石のついた、古~い指輪でしたよ」
って、山田さん言ってましたよ。
面白い話ってあるもんですねぇ。
備考:この内容は、
202207-21
発行:リイド社
著者:稲川淳二
著者:稲川淳二のすご~く怖い話」
より紹介しました。