自動車経済評論家 池田直渡氏
【「もっとBEV普及を」と意気込む側に
かけているバッテリーの「急所」認識。】
「何を当たり前のことを」と
思われるかもしれないが、
BEVは、電気エネルギーで、
クルマを走らせて言う。
その際、電気はそのままの形では
貯めておくことができないので、
科学エネルギーに変換して
貯める。その貯蔵機器が
「バッテリー」である。
さて、そのバッテリーの
仕組みは、あまり解説
されていないので、
まずは、そこから入りたい、
バッテリーは、「セル」と
呼ばれる基本単位を多数集めた
構造体で、セルは、正極と負極
という、1対2枚の金属板と、
金属板同士のショートを防ぐ
セパレーター、その間を
満たす電解液でできている。
物理現象としての充放電は、
電解液を媒体とした
正負極間のイオンの移動である。
それは、おおむね電極を構成
する金属酸化物の仕事なのだが、
これをバッテリー界隈の
人は「活物質」と呼ぶ。
性能の差異を作るのは、主に「正極」
なので、今回は正極の話として
進めていきたい。
【少しだけ、「科学」の勉強に
お付き合いを...】
正極の主素材には、いろんな
選択肢があるが、動力用
バッテリーの主流となる金属元素は
「リチウム」である。
研究段階のものも含めれば、
「ポストリチウム」として、
ナトリウムや、水素など日々の
ニュースで、さまざまな
次世代技術が発表されているが、
商用化段階にある二次電池は、
補機用の鉛電池か、
ハイブリッドに多く使われる
ニッケル水素で、BEV用は、
実質的に、すべてリチウムイオン
電池が独占している。
次世代は、次世代であって、今すぐ
あてに出来るものではない。
科学的に安定した安全な物質、
例えば水や二酸化炭素の
ような活発ではない物質では
バッテリーは作れない。
高性能バッテリーには、不安定で
危ない活発な物質が不可欠だと
考えてほしい。実際、金属
結晶のリチウムは、水に触れた
だけで一気に酸化して激しく燃焼する。
電池におけるリチウムの
役割はエンジンだ。反応の活発さは、
エンジンの出力のような
ものといえる。
リチウムは、
金属の中で、最大のイオン化傾向
を持つ。要するに大馬力の
エンジンだ。
馬力がなければ、バッテリー
として性能が上がらないので
大馬力は大歓迎なのだが、
その馬力を適切にコントロール
できないと燃えてしまう、
制御方法は、まだ工夫の最中で、
決定版がない。
バッテリーの
研究開発とは、その工夫の
歴史である。
当然、大馬力を制御するには、
ブレーキが必要だ。暴走への
制御力は、この場合リチウム
イオンを拘束する強さだ。
塩や雪の結晶を見れば
わかるように、物質にはそれぞれ
結晶をつくる時に、独特の形がある。
大まかに言って、
ミルフィーユのように層状の平面で
イオンを挟み込む結晶と、
八面体と立体構造のジャングル
ジム状の枠中にイオンを
抱える結晶があり、金属を上手く
ブレンドすると、強固な
ジャングルジムができて、より強く
イオンを拘束できる。
「塩の結晶」
「雪の結晶」
「リチウムイオンの結晶構造」
バッテリーが、熱暴走すると、
このイオンを拘束して
いる結晶構造が崩壊して
ブレーキが効かなくなる。
強固な構造で
あるほど熱暴走への
耐性が高い。要するに燃えにくい。
三元系リチウムイオンバッテリーで
最もポピュラーなのは、
ニッケル、コバルト、
マンガンの3種類の金属の酸化物
を使う方法で、これを上手く
使うと、最も丈夫なハ面体結晶が
できるというわけだ...。
備考:この内容は、
2024-1-10
発行:講談社
「ベストカー」
より紹介しました。