SF星新一著「宇宙人たち」...その4

答えようのない第1声

「腹が減ってるんだが、

ダイヤモンドを安く食える店を知りませんか？」

頭にカール用の円筒形の金具を

いっぱいくっつけた婦人というものは、まことに異様で、

私たちも人類以外の動物のように

感じてしまう。

宇宙人が同類と思うのも、もっともで、

それを描いたマンガもいくつかある。

夜中に、その家の玄関に捨て子をしたりする。

朝になって、頭に金具をたくさんつけた

宇宙人の子どもを婦人が発見したら、肝を

つぶすに違いない。

夜の公園に着陸した宇宙人。そこへ

たまたま地球人の男が、ネコの子を捨てに

やってきていた。

その男、

「これは、地球人の

あがめる神聖な動物、これを持っていることは

地位の象徴です。惜しいけれど、

あなたの星へのプレゼントとしてさしあげます」と、

これ幸いと押し付けてしまう。

宇宙人の中には「どうです？

円盤に乗って宇宙見物をなさいませんか？」と地球人

を誘うのもある。

そう話しかけられた夫婦、

妻が夫に「あなた行きましょうよ。

しばらくは会社の仕事なんか、何もかも

忘れて旅行するのはいいことよ」

未知の宇宙船に乗せられ、どこへ

連れてかれるか、わかったものじゃないのだ。

たしかに、会社の仕事のことなど忘れるだろうが...。

宇宙人に同乗をすすめられるが、

男は手を握って、

「俺はいま、やっと仕事が

儲かりはじめたんだ。のんきに町を

離れるわけにはいかないんだ。」と断る。未知の

文明に接するより目前の利益というしだい。

「動力の秘密をお見せしますよ」と、

人々を中へ呼び入れる。そのまま捕まえ、

ムチでひっぱたきながら、オールを

こがせて飛び上がるなんてのもある。

強引に乗せるために、地球人を捕獲

する方法の一例。街頭に強力接着剤を塗り

【ペンキ塗りたて】の札をさげておく。

地球人というやつ、札がなければ、そのまま通りすぎ

るが、その札を見ると指でちょっと、

触ってみたがる性質がある。かくして、

ハエトリ紙にくっついていたハエのごとく...。

　円盤に乗つてみた人物、どんなだろう？

と内部を観察。だが、宙吊り広告がいっぱい、

つり革があり、座席にかけている

宇宙人たちは。新聞を読んだり、居眠りをしたり、

ポケットウィスキーを飲んだり、

ニューヨークの地下鉄のごとき雑然とした

うす汚い感じ。「内部がこんなムードとは、

想像してもみなかったな」

さらに、まともな円盤の着陸を描いた

マンガもある。すなわち、円盤は堂々と着陸し、

地球側は宇宙からの来訪者と認めて

迎える場合である。円盤内で、お化粧に夢中の

女宇宙人を男の宇宙人がせきたてている。

「おめかしはいい加減にして、外へ

出よう。外はさっきから、テレビ・カメラが

何台も並び、みなさん、いらいらして

おいでのようだ」

やがて、円盤状に現れた宇宙人が、

演説をはじめる。しかし、その姿が、ヤボな

モーニング着用で大げさな身振りとなると、

どうもしっくりしない。地球側はがっかり

「感激しようがない。緑色の小人を

期待していたのになぁ...」

宇宙人側が、がっかりしている図もあった。

地球人を見て「テレビのディズニーマンガ

番組の電波を受信し、ドナルドダックが

実在で、人間のほうがフィクションなのかと

楽しみにしてやって来たんですが...」

宇宙人を取り組み、あれこれ質問攻めに

する地球人たち。もっともなことである、

それに対して宇宙人「質問をしに

はるばるやって来たのは、こっちなんだ。聞きたい

ことがあるのなら、わたしの星へ

来てやってくれ」と不服顔。これまた、もっともな

ことである。

無人の大円盤が都市の中心部に落下、

被害甚大。「しかし、しかたがないな。地球も

火星に向けて探検ロケットを打ちこんだり

しているんだ。どこかの星がこっち

向けて打ち込んできても、文句は言えん」

というのは、地球中心思想への反省である。

ある官庁の受付で、宇宙人が泣きついている。

「どの役所へ行っても、こっちを

信用してくれず、交渉に入ってくれない。

いったい、どこへ行けば相手にして

くれるんです？」

「空飛ぶ円盤とは、暗示にかかりやすい

人の幻覚、または天然現象の確認がすべてで、

実在物ではありません」と、

会議の席上でお偉がたが説明している。その窓の外に

円盤があらわれ、宇宙人が顔を

出してあかんべぇをしている。

アメリカ空軍内のUFO観測本部を

宇宙人が占拠してしまったマンガがあった。

そこの部員たちをしばりあげ、宇宙人が

電話の応対をやっているのである。「空飛ぶ円盤

なんて、目の錯覚ですよ。あくまで

主張なさりたいのなら、まず、精神鑑定を受けて

からになさい」などと、鼻であしらっている。

たしかに、真っ先にここを占拠されたら、

地球側は大変である。

宇宙人の地球侵略をあつかった小説は

多いが、マンガにはあまりない。一枚の絵で

示しにくいからであろう。ちょっとした

傑作に、こんなのがある程度だ。司令官が隊員

たちに命令している。

「さぁ、きみたち数千人は、すべて地球人そっくりに

変装し終わった。以前につかまえた人間を見本に、

それと見分けのつかぬように仕上げたのだ。

作戦開始。各地に密かに潜り込め」

まさに地球の危機だが、そのサンプルに

された人物がヒットラーなのである。

ヒットラーが数千人も並んだのは壮観である。

だが、これでは目立ちすぎ、あっという間に

全員つかまるだろう...。

備考：この内容は、

令和3-12-30

発行：新潮社

著者：星新一

「進化した猿たち」

より紹介しました。