台風が来るとウカれる。
それが南の男。
海まで徒歩1分。”シーサイドマンション”
というベタな名前のマンションに住んで
いた僕は、台風が来るたんびに、近くの
フェリー乗り場へ向かっていた。
そこは、テレビの台風中継をやる定番
ポイントだったのだ。僕は友達と、アナウンサーの
うしろに陣取り、ピースサインを
出すという不謹慎な遊びをしていた。
毎年3回ぐらいは上陸する台風、その中でも
特に強い台風が上陸したときのこと。
いつものようにフェリー乗り場へ繰り出した
僕たちだったが、今日は撮影クルーが
いない。
どこにいるか探すために、辺りをウロウロ。
今日は、もしかして、灯台の辺りか?
なんて話し合いながら、普段でも入ることが
できない灯台の方まで足を進めた。
もちろん、灯台だから海に突き出た場所にある。
子ども3人、身を寄せ合いながら。
幅2メートルぐらいの道を、灯台の明かりを
目指して必●で歩く。灯台に着き撮影
クルーを捜すが、いない...。
いるわけがない。
今回の台風は危なすぎて、撮影クルーは
フェリー乗り場にすら来ていなかったので、
それに気づいたときは、自分たちのほうが
危ないことになっていた。
雨で体はグッショリ、たまに来る高波は、
頭上まで降りかかり、洋風にあおられ海へ
転げ落ちそうに。散々だ。
さすがは灯台、行きは明るかったが、
振り返ると真っ暗だ。
半笑いでたどってきた幅2メートルの道を、
帰りは半泣きで四つんばい。
テレビに出たい一心が、この結果。
でも本当に、
●ぬかと、思った...。
備考:この内容は、
2010-7-22
発行:アスペクト
編・著:林雄司
「●ぬかと思った 8」
より紹介しました。