映画を「観る」楽しみだけでなく、「読む」楽しみも伝えたい。
そんな思いから本誌が、毎年発表している”映画本大賞”。
作年発行された映画関連本のなかから、
映画評論家、ライター、編集者、
芸術書を担当する書店員た映画本を愛する24人が、
心に残ったベストブックを選出します。
多面的なインタビューで映画史の奈落へと迫るドキュメントから、
著名な映画監督を掘り下げその作家性の新たな読みを促す一冊、
そして、惜しくもこの世を去った映画評論家、研究者によるあの本も...。
果たしてどんな結果になったのか?
映画も魅力をたっぷり詰め込んだ映画本の世界をお楽しみください。
第1位
「映画を追え・フィルムコレクター歴訪の旅」
山根貞男著・草思社・2640円
フィルムはモノだからなくなるが、逆に、モノだからこそ、
どこかに在りうる!...身近な知人から生駒山麓に
住む伝説的コレクター、果てはロシアまで、映画フィルムの
蒐集に憑かれた人々のユニークな横顔。飽くなき
探求と共有の風景を活写するうちに、物質としての映画を
めぐる葛藤と、その過程で映画との向き合い方を再発見
していく著者自身の相貌が浮き彫りになる。本の完成
までに物故した人をふくめ、「取材させてもらった人
たちは全員、わたしの中では、今も元気に生き続けて
いる!と著者は書くが、30年以上を費やして書かれた
本書の、1つひとつの言葉に、山根貞男という稀代の
映画評論家が生き続けていることを実感する。
(佐野享)
第2位「仁義なきヤクザ映画史」
伊藤敦彦・著 文藝春秋 2365円
切れ味の鋭い日本刃のような本だ。「ヤクザ映画史」と
銘打たれているが、冒頭から国定忠治や挟客・
吉田磯吉、そして、「群馬事件」「秩父事件」が提示され、
ただの映画史ではないと予告される。
(野村正昭)
第3位 「ハリウッドのルル」
ルイズ・ブルックス著 宮本高晴役
国書簡公開 3520円
伝説の女優による自叙伝的エッセイ集も待望の邦訳。
自己を裏切ることなく知的かつ奔放に生き人気商売
なのに、人から好かれようなんてまるで考えなかった。
脳天がしびれるような素直さと尖った批評眼に貫かれて
いるが、特に渡独したときの監督バブストとのエピソード
には目を丸くした。
そしてもし、あのクール極まる
「わたしの渡世日記」を書いた高峰秀子と
知り合っていたら、タイプは
違っていても心は通じたかも...
と妄想した。 (岡田秀則)
第4位「小津安二郎」
平山周吉著 新潮社 2970円
本書で最も驚いたのは、「麦秋」(51)で流れる
オルゴール(埴生の宿)が なぜあれほど感動的なのかを分析
した「くだり」である。さらに「宗方姉妹」(50)、「東京物語」
(53)において、山村聡が体現してしまった敗戦国日本の
陰惨で無力な男たちの系譜をたどる実証的な解読にも
うなった。
(高崎俊夫)
第5位「青山真治クロニクルズ」
樋口泰人 責任編集 リトルモア 7480円
常に先行者(中上、蓮寛、黒澤等)との距離を測り。
彼らの後、自分に何ができるか見定めていった青山監督、
ここに残された その時その時の証言、記録は
その選択の軌跡である。
(吉田広明)
第6位「伝説のカルト映画大井武蔵野館の6392日」
太田和彦編 立東舎 3000円
1981~1999年まで大井町に存在した伝説の
名画座「大井武蔵野館」の全貌が1冊に。
特に、担当編集者の執念ともいうべき
巻末の全上映作品リストは圧巻。
(のむみち)
第7位 「社長たちの映画史」
中川右介著 日本実業出版社 2420円
どうも映画会社の社長たちは、文化芸術としての映画に
さして関心がないらしい。中川右介氏が「物語」化した
厚さ3センチに及ぶこの実録大著では、どの時代の
社長も映画を金を生み出す”商品”扱い、その商品を
めぐってさまざまな戦略、攻防をめぐらす。
しかも、世襲に
執着、派閥を作り、時には密約、裏切りも。
(北川れい子)
第8位 「映画監督放浪記」
関本郁夫著 伊藤彰彦、塚田泉 編/
小学館スクエア 4950円
「好色元禄マル秘物語「(75)、「大奥浮世風呂」(77)、
「天使の欲望」(79)...投影のプログラムピクチャー
にあって、作劇の鋭さ、叙情性で一部の映画ファンに
強く支持された関本郁夫監督の自伝。
(尾形敏朗)
第9位 「テレビマン伊丹十三の冒険」
テレビは映画より面白い?
今野勉著 東京大学出版会 3850円
70年代に脱ドラマやドキュメンタリードラマを世に問いかけ、
「映画的であるということよりもテレビ的であることの
方が面白い」と当時、語っていた盟友を、後押しした著者に
しか記せない本だ。
(轟夕起夫)
第10位 「メロドラマの想像力」
河野真理江著 青土社 2860円
2021年に34歳で急●した映画研究者の遺稿集。
作品論、作家論、俳優論をはじめ、
訳書解説や書評まで
内容は多岐にわたるが、必ずしも自らの専門分野ではない
(ときには「全然わからない」)映画について、
媒体の発注に準じつつも観る主体である自身が
看取した印象に背くことなく、そのつど練り上げられた柔軟な言葉の
数々は、そのいずれも読むものにひとつの作品を
前にしたとき如何にして考えをおしすすめてゆくかの
道程を示してくれる。
(高橋祐弥)
備考:この内容は、
令和6-6-20
発行:キネマ旬報
より紹介しました。
最後まで呼んでいただき、