上田次郎「ユタ～呪術のウソ・ホント」...その3

こうして私は、実験動物を捕獲しに

行くような心持ちで、一路「黒門島」へと

向かった。山田は、父の●の真相を

はっきりさせるために、その島へと

渡っているはずだ。

島に到着した私は、あちこち捜す

までもなく山田の姿を捉えた。越後獅子か

吉原炎上かという奇妙な出で立ちで、

海岸を全力疾走していたのだ。

まさに、実験動物...。私はそれに追いつくと、

引きずるようにして近くの洞窟へと

まずは、山田をこの島から連れ出さなければ。

私は、山田を洞窟に残し、脱出用の

船を探し始めた。が、不覚にも、そこで

山田をだましてここまで連れてきた

張本人、黒津次男・三男という兄弟に

見つかってしまう。

まあ、その程度の

ピンチは私のカラテで軽く切り抜けられる

のだが、こんなところで事を

荒立てる必要もない。私は、すきを見せない

ようにしながら、黒津たちに導かれて

村の中心部へと足を踏み入れた。

ある民家に入ると、そこには、なぜか

里見さんが控えていた。そして、

「私たちには構わないでください。さもなくば、

次はあんたを呪い●す。」と

言い放った。里見さんが、なぜ黒津などの

味方を？　いや、これにはなにか深い事情

があるに違いない。やむを得まい。

私は、不本意ながら襲いかかってくる

島の連中をなぎ倒し、その場から姿を消した。

難なくその場を抜け出し、再び

山田と合流した私は、元男という島の男と、

出会う。彼は、危うく山田と結婚

させられそうになった、島一番の”大きな

根っ子”の持ち主だった。

彼はこう語る。

「いやぁ、学者先生、よくぞ島に

来てくれました。先生が来れなかったら、

私はこの乳がえぐれた女と、

”マ●ワーイ”の儀式をたらなければならなかった。

あな恐ろしや、恐ろしや...」

そうか、たしかにこのような色気のない

貧乳女と婚礼などということになれば、

私なら自決の道を選んでしまうかも

しれないほど屈辱的なことだ。そうして

私と元男はすぐに意気投合し、彼は

快く脱出用のボートを提供してくれた。

さらに、彼の家に代々伝わるという

謎のお札まで私に差し出してくれた。

どうやらそれは、大昔から伝わる

伝説を指し示す地図になっているようだ。

しかし、今は、そんなことに、かまって

いる場合ではない。とにかく島を脱出

しなければ、我々は元男に見送られながら、

ひっそりとボートを漕ぎ出した。

私の力強いオールさばきで島は

ぐんぐん遠ざかっていった。しかし、

山田は、この期に及んで、とんでもないことを

言い出した。

「上田先生さま、先程のお札は

もしや財宝のありかを示した地図

ではございませぬか？　もしそうなら

貧乏なわたくしにとって千載一遇のチャンス。

どうかこの可愛そうな貧乳女を

助けると思って、島にお戻り

いただけませんでしょうか？」

ふん！　島の人たちの目を

盗んで財宝を横取りしようなど、

つくづく卑しい女だ。しかし、強情な

山田のことだ。今から泳いででも島に

戻ると言いかねない。私は、せっかく手に

入れたこの実験動物を手放すのも

口惜しいと判断し、

仕方なく島に引き返す

ことにした。

島に戻った我々を迎えたのは、

何と無残な姿と化した元男の亡骸あった。

こんなことをするのは、

腹に一物を

抱えている黒津兄弟に決まっている。

もはや

この悪事を許しておくわけにはいかない。

今回の事件も、私が徹底的に

暴いてやる、来年には、教授になるで

あろうこの天才、上田次郎が...！

私は、村人たちの前で黒津兄弟の

企みを暴くことにした。まず、その場に

いた全員に、島に伝わる伝説について

論理的な解釈を聞かせる。大昔から

の島には、120年に1度”シニカミ”が

現れるという言い伝えがあった。

しかし、その”シニカミ”とは島の方言で、

それを訳すと本来は”ゼニカメ”

の意味。つまり、120年に1度、

この島の近くの海に”ゼニカメ＝財宝”が、

出現するということなのだ。

それに目がくらんだ黒津兄弟は、島の盟王の

家系の長男である元男が受け継いだ札を

奪おうと画策。さらに財宝のありかを

示す情報の一端は、巫女の家系出身

である奈穂子が持っていると思い込んでいた。

こうして、島の人々と山田らを

巻き込んだ謀略が進められていたのだ。

それでも、なお罪を認めようとしない

黒津兄弟に、私は決定的な証拠を

突きつけた。彼らが元男を●害して奪った

札は実は偽物で、それを並べ替えると

はっきりと、”津愚緒斗巳津尾弐子

呂左零田野出須”という文字が現れた。

そう、いうまでもなくてもこれは、

”ツグオトミツオニコロサレタノデス”と読む。

これでようやく罪を認めた黒津兄弟は、

おとなしく警察に連行されて

いったのだった。

しかし、もしかしたら今回の

出来事は、すべてあの人が。山田の母親・

里見さんが仕組んだことなのでは？

島に伝わる因習を打ち壊すために、そして、

16年前に剛三氏を奪った島の人たちに

復讐するために...。

今となっては、もはやそれも

どうでもいいことなのかもしれない。悪人は

捕まり、村には元の静けさが戻った、

そして、この後、たとえ島が滅びること

になっても、それは単に島の寿命が

終わっただけに過ぎないのだから...。

またもや、一人ですべてを解決して

しまった私は、山田を引き連れて元男

から預かった札に書かれた地図を

頼りに、”シニカミ”が現れるという海の

上にある場所を目指した。

そこには、私が予想した通り、月と

惑星の並びの関係で120年に一度

現れるという陸地が存在した。勘違いしないで

ほしいのだが、俗物の山田などと違い、

私がここに来た理由は純粋に

研究のためだ。

決して財宝目当てなど

ではない。と、そこで島の一角に

小高い砂山のような部分があることを発見

した。

　

掘り進めてみると、中から男性●を

かたどった黒い石碑が姿を現した。

書かれていた文字は、「後世の者たちへ

宝は争いの元になるのですべて処分

せしものなり。貧しくとも清く生きろ。」

この言葉こそ真の宝なり。それを

見た山田はショックのあまり茫然自失となる。

　

しかし、私は満足だった。こうして

120年に一度たった3時間しか

地上に姿を見せない陸地に立つことが

できたのだから...。

ん？　そういえば、ここからどうやって

帰るかをまだ考えていなかった。

乗せてきてもらった漁船はすでに海の

彼方へ消えようとしている。

ということは、我々は3時間後には、このまま

海の中ということ...か？　まずい、世界一の

頭脳がこんな南の果てで、その生涯を

閉じることになっては、地球的損失だ！

考えろ、考えるんだ次郎。

山田はともかくとして、わたしはどうしても

生きて戻らなくてはならない。慌てふためく

山田を尻目に、わたしはこの危機的

状況から助かる唯一の方法を思いついた。

つまり、それは...。

備考：この内容は、

2002-11-30

発行：学習研究社

著者：上田次郎

「日本科学技術大学教授・上田次郎の

どんと来い、超常現象」

より紹介しました。