【驚愕!
バカしか生き残れなくなった絶望的な未来...】
「26世紀青年」
米軍に勤務する、ごく平凡な男
ジョー(ルーク・ウィルソン)は、
1年間冷凍睡眠の実験台になる
任務についた。しかし、彼の存在は
忘れさられ、眠りから覚めたのは
500年後のことだった。
そこで、ジョーが目にしたものは、ゴミの山と
ジャンクフードとTVにしか興味
のないバカばかり。
そう、500年の間に、結婚や子づくりに慎重な
インテリ層は、人口減少によって絶滅。
それに対してデキ婚や大家族化を
●わないDQN層の人口が
激増したことで、米国はバカしか
いない国になっていたのだった。
結果的に国一番のインテリになって
しまったジョーは、政府の覇権をめぐる
低レベルの騒動に巻き込まれて
いくのだが...。
『ビーバス&バットヘッド』や
『キング・オブ・ザ・ヒル』といった
大人向け毒入りTVアニメの
クリエイターとして知られる
マイク・ジャッジが、高い評価を
得た
『リストラ・マン』(98年・未公開)に
続いて放った実写作はSFコメディ
となった。
しかし、多くのSFが
そうであるように、本作も現実の
アメリカを戯画的に語った作品
である。
「国民健康保険を実施したら社会
主義国家になる」と信じ込み、
アル●イダとフセ●ンの区別が
つかず、リアリティ番組や右翼的な
ニュースショーに喝采を叫ぶ米国民の
バカ化に対して、本作は笑い
ながら警鐘を鳴らしているのである。
そんな米国のバカ化を押し進めた
のが、中立的な報道を旨とする
3大ネットワークに対し、扇情的
かつ愛国的な報道に徹したフォックス・
テレビだったわけだが、本作の
制作会社は同じグループの
フォックス・ピクチャーズだった。
おそらく『キング・オブ・ザ・
ヒル』でフォックス・テレビの
視聴率に貢献していたジャッジを
信じて、自由に映画を撮らせたのだろう...。
だが、完成した作品を観た
スタジオの重役たちが顔を青くしたは
間違いない。
その証拠に、本作は、
完成から公開まで1年以上も
放っておかれ公開の際には、予告編も
プレスキットもまったく作られ
なかった。
ノー・スター映画ではない。
主人公ジョーをルーク・ウィルソン、
ヒロインを『サタデー・
ナイト・ライブ』の出身で最近では
『ブライズメイズ 史上最悪の
ウェディングプラン』(11年)で
いいところを見せていたコメディ
エンヌ、マーヤ・ルドルフといった
人気者が演じているにもかかわらず
である。
公開劇場数は、全米6都市
のたった130館。しかも、良い
評判が、口で広がることを恐れたのか?
本作に喜ぶ観客が最も多いで
あろうニューヨークでは、
公開されなかった。
こうして、『26世紀青年』は闇に
葬られてしまった。事実を語れば
こうした措置をとられることは
マイク・ジャッジにもわかって
いたはずだ。
だが、それでもなお、
敵陣の真っ只中で本作を撮った
マイク・ジャッジのロック・スピリットは
称賛に値する。
『20世紀少年』の
浦沢直樹もロック、ロックと
騒ぐなら、本作のような物語を作る
べきだった。
なぜなら、石原慎太郎や
橋本徹の総理待望論が叫ばれて
いることに象徴されるように。
日本のバカ化も猛烈な勢いで
進行中だからだ...。
備考:この内容は、
2012-8-21
発行:洋泉社
「~異次元SF映画100~」
より紹介しました。