花屋の店先に、春を感じるなどといえば、
無粋の極みかもしれない。それでも、小さくほころぶ
桃の枝が飾られているのを観ると、軽やかな
気持ちになる。その隣には、黄色い菜の花と青い麦を
組み合わせた花束があった。
「菜の花」
意外なようでいてお似合いなのは、麦畑の穂
と、いちめんの菜の花が、かつては、どこにでもある
農村風景だったからだろう。買い求めて
花瓶に挿すと、春がそこに、ちょこんと
座っているように
見えた...。
春の色があり、春の香りがあり、そして
春の味がある。春の花は、昔から春の訪れとともに
食されてきた。料理の格言に
「春の皿には苦味を盛れ」という。
菜花も、ふきのとうも、苦さを、
そして、そのなかの甘さを楽しみたい。
「かき菜」
菜花には、気候風土にあわせた品種が多く、
群馬に「かき菜」が、新潟に「川流れ葉」がある。
「川流れ菜」
筆者の近所で手に入る「のらぼう菜」は、
東京や神奈川などで作られてきたという。寒さに強く、
天明・天保の飢饉では、多くの人命を救った
と伝わる。
「のらぼう菜」
どの菜も、冬の寒さをしのぐことで
味わいを深くする。
「ふきのとう」
この間までの、寒気がうそのように、
各地で暖かな週末となった。
関東では、桜の散る頃の陽気と
いうから、ジェットコースターに乗っているかのようだ。
きのうは、蜂そして蝶がはばたくのも
目にした。
もしや、びっくりして跳び起きたのか?
予報によると、明日からはまた冬の寒さに
戻るという。
「寒暖差疲労」という言葉もあるほどで、
体調には十分気をつけたい。
滋味あふれる野菜などをいただきながら....。
備考:この内容は、
2011-9-30
発行:朝日新聞出版
著者:朝日新聞論説委員室
「天声人語」
より紹介しました。